様?殿?
混乱につぐ混乱が落ち着き、なんだかあったかい気持ちになれた絶妙のタイミングで石田メイド長がミルクティーを運んでくる。
空気までよんでいるとしたら、それはもう本職レベルの仕事っぷりではないだろうか。
運ばれてきたミルクティーは香り高く、紅茶などペットボトルでしか飲まないボクにも、ティーパックで入れたようなお茶ではないことがはっきりとわかった。
カップをとり、一口飲むと、熱すぎず、ぬるすぎない絶妙な温度。本当にこれはプロの仕事と言わざるを得なかった。
「…おいしい」
「恐縮です。夏樹さま」
「ああ、えっと、こちらこそ…」
かしこまった態度をとられると、なぜかこちらまで恐縮してしまう。不思議なものだ。
「あの、石田君?」
「はい、何でしょうか?夏樹さま」
「その、『さま』付けやめない?ちょっと堅苦しいよ」
「そうでしょうか?メイドの私から見て、この部屋の部員の皆さんはみな目上の方。さま付けは基本かと思いましたが…」
「うん。そうなのかもしれないけど、慣れていないからさ頼むよ。さま付けは勘弁で」
「えっと、それでは、夏樹殿、でよろしいでしょうか」
「なんか余計におかしくなってる!?」
本気で言っているのかネタなのか。
その薄い微笑みから読み取ることはボクにはできなかった。