…どちらさま?
少しおかしな様子のままのほたると廊下で別れてひとりになる。
そしてそこから、2歩3歩と歩くだけで、教室の前にたどり着く、が、早い時間に家を出てきたせいで、教室の中に人影はまばらだった。
(時間あるから、部室に裁縫キットおいてこようかな…)
ふと思い立って、新しくボクらの部室になった講堂へと向かうことにする。
廊下を歩き旧校舎の方へ向かう間、少しだけわくわくする。
『部室』
数年間縁のなかった場所が、新しい生活で、新しい場所で、新しい形で手に入る。
それはとてもドキドキして、でも楽しみなことだった。
旧校舎までの道のりは渡り廊下を渡らなくてはならず多少遠いけれど、その程度は苦にならないくらいボクの心は弾んでいた。
講堂の扉の前に立ち、思いだす。そういえば昨日、このドアを開けた時は、謎のメイドさんこと石田君が微笑んでくれたんだっけ…おかげでボクはずいぶん混乱したな。
さすがに朝早い時間にメイドさんが微笑んで出迎えてくれて混乱することはないだろうけど…。そう思って苦笑しつつ、講堂のドアに手をかけようとした、その時。
…バタン!!!
すさまじい音を立てて扉が開き、ボクに襲いかかってきた。
「…へぶっ!?」
わけもわからずに扉の猛攻をもろに食らうボク。
「…わわっっ!!ごめん!!ごめん!!扉の向こう誰かいるなんて気がつかなくて!!ごめんね!!大丈夫?清水くん!?」
「…へっ」
扉が直撃して倒れこんだボクの頭上に誰かが影を落とした。
その人物の姿を描写しようと思う。着ているのは詰襟学生服。つまり男だ。
顔つきは整っていて、ぱっと見で美形といった感じだが、高校生にしてはやや幼い感じで、中学生ぐらいに見える。ボクに扉をぶつけてしまったことにあわてて、あたふたと焦っている様子は、余計に彼を幼く見えさせていた。
そして…ボクの狭い交友関係の中に、彼のような人物は存在しておらず、必然的にこの言葉が出てきた。
「あの、申し訳ないんだけど…どちらさま?」
ボクが彼を知らなくて、彼はボクを知っている。こうした状況が起こる場合には2つの可能性が考えられる。まずその一。ボクと彼とがお互いに顔見知りであったが、ボクが彼を忘れてしまっていた場合。
「ええっ!?忘れちゃった!?」
そして、その二。
「石田哲也だよ。昨日、自己紹介したよね?忘れちゃった?」
面識はあっても、最初に出会ったときとはあまりに印象が違いすぎ、知り合いだと気が付けない場合。
今回の場合は、後者のパターンが当てはまった。ゆえに、ボクが彼、石田君に対するリアクションは当然のように、
「…えっ?」
という理解できないという疑問符と、
「…えええぇぇぇっっっ!!??」
という理解した後の絶叫だった。