伝言
「お~い。ほたる~?」
いつもより早い通学時間のせいか、人影は多くなく目当ての人物にはすぐに追いついた…というか下駄箱の影で待っていた。
「なっちゃん、いいの?先輩とお話しなくて」
「お話しなくていいの?もなにも、あんな変なお前をほっとけるかっての。なにがあったんだよ?」
「…なにもないよ」
「なにもない?」
「なにもないったらなにもないよ。なっちゃんがわかんないんだったら、なにもないに決まってるじゃない!!」
「…なに怒ってんだよ。わかんないなぁ」
「怒ってない!!」
ほたるは先輩の姿を見てから妙に機嫌が悪い。
さっきまでの上機嫌は本当にどこにいってしまったのやら。
でも、もしほたるが怒っているその理由が、ボクの思っている通りだったとしたら、ボクはどうするべきなんだろうか?
いや、そんなはずないか。だってボクとほたるはただの幼馴染。それ以上でもそれ以下でもないんだから。
「ああ、うん。わかったよ。とりあえず教室いこう?」
朝の早い時間で人があまりいないとは言っても、さすがにこれだけ大きな声を出していれば目立ってしまう。
そのことをほたるも察したのか、うつ向きながら、かすかにうなずいた。
教室へと向かう階段の途中で、先輩からの伝言を思いだし伝える。
「そういえばほたる。先輩から伝言」
先輩という言葉にピクリと反応したものの、ほたるはうつむいたまま。こういう時のほたるはなかなか口をきいてくれないから。ボクもかまわず続ける。
「先輩、ほたるに頑張れだって。応援してるってさ」
先輩からのその伝言を聞くと、ほたるはギクリと肩をすくませ、ゆっくりとボクの顔を見た。
そして…なぜかその顔は少しずつ赤く染まっていき…
「そっそう…」
ほたるはさっきとは全く違う雰囲気で、だけどまたゆっくりとうつむいた。
この雰囲気、やっぱり…いや、でもそんなはずはないと思うんだけど…。