先輩と幼馴染と
ほたるが機嫌良く歌う傍らで、ボクもぼんやりとしながら歩く。
ともかく天気が良くて、心配事もないというのは素晴らしいことだ。
校門をゆっくりと潜り抜け、玄関前の階段を登っていく。あたたかくなり始め、階段わきの桜の木も葉が開きつつある。
「おはよう」
唐突に声をかけられる。その声は…
「あっ、おはようございます。東雲先輩」
「うん。いい朝だな。青春部なんだが今日から正式に部活動として受理されたから、昨日と同じ時間から同じ場所で始める。ということで各自用意して集まってくれ」
先輩は朝にふさわしいさわやかな笑顔で答えた。
「あっ、はい!!わかりました。ありがとうございます。それを伝えるためだけにわざわざこんなところに?」
「まぁそんなところだ。うれしくなってしまってな。みんなに早く伝えたかったんだ」
そんな風にはしゃいだ様子の先輩の顔を見ていると、なんだかこちらまでうれしくなってくる。
そんなボクらの様子とは正反対に、先ほどまでの上機嫌をどこへやってしまったのか、ほたるは少し不機嫌な顔になっていた。
先輩はそんなほたるの様子を怪訝に思ったのか、先輩は尋ねる。
「ところで、そちらの人は、昨日も一緒に登校していたね?」
「えっ、ああ、そうですね」
「彼女かい?」
「へっ!?いや、そんな違います!!彼女なんていないですよ」
ボクのあたふたしたリアクションを見て、先輩はおかしそうにクスクス笑う。
「なんで笑ってるんですか?ほたるとはただの幼馴染で…」
「ほたる?ああ、ソフトボール部の期待の新人の子か!いや、恵子に聞いてるよ。かわいくて実力のある大型新人が入った!!って。この高校のソフト部は毎年部員数が大会登録ギリギリだから、すごく喜んでいたよ」
「…へぇ」
ほたるが中学時代もソフト部でレギュラーとして活躍していたのは知っていたけど、高校に入ってもすぐ話題になるほどとは…知らなかった。
そんな先輩の言葉を聞いてか聞かずか、ほたるは先輩に突然頭を下げた。
「すいません。そろそろ日直の時間なので。なっちゃんのことよろしくお願いします。変なやつですけどいいやつですから」
そう言って、ほたるはさっさと玄関の方へ走って行ってしまう。
「おい、ほたる!?すいません。ボクも行きます」
「ああ、わかった」
ボクが走っていこうとすると、先輩が呼びとめる。
「あ、清水君。ちょっと待ってくれ」
「なんです?」
今はほたるのおかしな様子が気がかりだったので、焦りつつ答える。
「さっきのキミの幼馴染…ほたるさんに伝えてくれないか?」
「…なんて言えばいいんです?」
「頑張ってくれ。応援している。これだけでいい。きっと通じる」
「?…わかりました」
先輩はクスクスと優しく笑い、ボクは疑問符をいっぱいに浮かべながら、ほたるを追いかけた。