ボクと幼馴染
「えっと、あの。そうだ!!ここにいるみんなは青春部、入ってくれるんだろう?さっきも言ったが、部活の申請には5人の部員が必要なんだ。だからこの用紙にみんなの氏名と必要な事項を書いてくれ」
部室全体に流れた嫌な空気を、東雲先輩が察し、話の流れを変えてくれる。
変な人だが、やはり入部したボクらを嗅覚というか、勘で探しだしたというだけあって、空気を察する能力も十分にあるということだろう。
先輩の差し出したボールペンと用紙に氏名と教室を書いていく。書くという単純な作業をさせるのも、嫌な空気を払しょくするのにはよかった。 まず、布施さん、次に北川君、次にボク、最後の一人になった石田さん(彼に君付けは非常に抵抗がある)が名前を次々と書き、先輩に手渡した。
「ああ、うん。ありがとう。それじゃあ、明日までにこの書類をまとめて提出して、正式に部活として申請する」
「はいはーい。またもや質問なんですけど、顧問の先生とかいいんですかね?」
「ああ、顧問に関してはあてがある。たぶんアイツは私が頼んだら断れないだろうし、ついでに細かい口出しもしてこないと思う」
「…えっ?」
「まぁとりあえず信じて待っていてくれればいい。最悪、やりたいことをやるためには、生徒会の力だっておしみなく使うからな」
そう言っていたずらっぽく笑った先輩の笑顔に、今日一日だけで何度撃ち落とされそうになっただろうか。
そんなボクの様子を見て、布施さんが何やらぼそっと言った気がしたが、小さな声で何を言ったのかまでは聞きとることができなかった。
家に帰る途中、見なれたポニーテール頭に出会う。
こうしてみると、ポニーテールという名前の髪形を作った昔の誰かさんはなかなかしゃれていると思う。馬の尻尾の何たがわぬしなやかさ。そして、後ろ髪が束ねてあり動きやすいという機能性。どれをとってみてもこの髪形はいいと思う。
「ほたる。いま帰りか?」
「ああ、なっちゃん!!こんな時間までいるなんて珍しいね。図書館にでもいってた?」
「そうだな。珍しいか。ボクがこんな時間までいるのは」
万年帰宅部のボクがほたるの部活が終わる時間までいることなんて確かにこれまでほとんどなかった。
「でも、図書館じゃないよ。もっと違う理由」
「え~なんだろう?わかんないなぁ…」
ほたるがキョトンとした顔をしながら聞いてくるので、ちょっと持ったいぶってみる。
「んじゃあ当ててみてよ」
「え~?補習…はなっちゃん頭いいからないだろうし、お説教なんてのもあり得ないでしょう?えっと…なんだろ」
真剣な顔をして考え込んでいるほたるの様子がボクにはすごく面白く感じられる。
「っていうことは、ひょっとして、ひょっとして…」
「うん?」
「…デート、とか?」
思わずこけそうになる。なんで放課後に学校でデートいなきゃいかんのだろう。
「いや、それは無いだろ!?なんでそんな結論に達したの!?」
ボクのその返答を聞いて、ほたるは心なしか安心したように、ホワホワした笑顔で笑う。
「いやぁ…ついになっちゃんも恋に目覚めたのかと…。えへへ…」
そう。こうだ。いつもこんな顔をする彼女を見るたびに、なんとなくもやもやする。
幼馴染でいつも一緒にいたのだから、そんなことはないって思う。だけど、こんな顔をされてしまうと、時々勘違いしてしまいそうになる。
なんとなく変な空気になりながらも、ボクはその空気をなかったことにしたくて、さっさと答える。
「違うよ。そんな相手いないし。部活入ったんだよ。実は。んで、今日はそれの説明会兼顔合わせ会みたいな感じ」
「部活!?なっちゃんが!?マジですか~。あれかな?やっぱりソフテニ?なっちゃん結構うまかったもんね。それとも手芸部とか?」
うまく話を変えられたことに内心少しほっとしながら、少し含みを持たせて答える。
「いや、どっちも違うよ」
「え~わかんないなぁ…。何部だろう?」
「そりゃあわかんないだろうね」
「なんで?私となっちゃんの仲じゃん。少し考えればきっとわかるよ!」
「い~や。わかんないと思うぞ」
ほたるが意地になってくのを見ていると、どんどん意地悪な気持ちが出てくるから不思議な感じだ。
「だって、その部活昨日までなかったんだもん。明日からできるんだ」
「…へっ?」
素っ頓狂な声をあげたほたるに、ボクはニヤニヤしながらさらに言葉を続ける。
「明日からボクは青春部っていう変な部活の部員になるんだよ」
「…はい!?」
ほたるの驚いた顔は、ボクの悪戯心を十分に満足させるくらい、キョトンとしたものだった。