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青春部(仮)に入りませんか?  作者: 夏野ゲン
青春部(仮)に入りませんか?
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自己紹介をしよう!!





「みんな、ありがとう。賛同してくれてうれしいよ。それじゃあ、自己紹介をしようか。これから同じ部活の仲間としてやっていくことになるわけだし、いつまでも君と呼ぶのもおかしいだろう?」


 先輩はそう言って笑った。


「じゃあ、まずはわたしからだ。私は東雲舞。生徒会の副会長もさせてもらっている。この部活でやっていくのは化石掘りだ。一番好きなのはデボン紀の魚類や昆虫、貝なんかの化石が好きだ。アンモナイトとかそういうやつ。だが、恐竜の栄えた時代であるジュラ紀から白亜紀に至るまで何でも掘る。そこにはロマンがある。時代という名の…」


「あのぉ、すいません先輩。自己紹介でそこまで熱く語られても誰もついて行けないぽいので、その辺で勘弁してもらっていいですかね?」


 先輩の止まらなくなりそうな熱弁を、窓際問題集少女が止める。

 彼女の言葉を受けて先輩は止まり、そして、


「すまないが、今いいところなんだ。もう少しだけ。もう少しだけ話させてくれ。すまない」


 我々に拒否権はなく、先輩の自己紹介という名のついた、古代生物への想いは、約20分ほど語られ続けた。




「…すまない。自己紹介だというのに話しすぎてしまったようだ。本当にすまない…」


 先輩はしょんぼりと肩を落とした様子。


「まぁ、いいってことっすよ。そんだけ語れる熱いもんがある人がこの部の部長だって言うんだから、きっとこの部は居心地いい部活になりますよ。…ってことで、時間もないんであたしが次の自己紹介行きますよ。サックと終わらせるんでご安心を」


 落ち込んでいる先輩をフォローした後に、先輩の自己紹介は長かったと暗に言ってのけたツワモノ。そんな窓際少女が今度は自己紹介を始める。


「どうも。あたしは1-3所属の布施うらら。先輩みたいに熱い思いかけて語れるような趣味らしい趣味は無いんだけど、しいて言うならあたしの趣味は『学ぶこと』つまり、『勉強』ってやつだね」


 …勉強が趣味?


「まぁ、勉強が趣味っていっても学校の勉強が趣味ってわけじゃない。あたしはあたしが知りたいことをあまねく調べて知識とすることを生きがいにしてる。まぁ、だから学校の勉強も嫌いじゃないけど、どっちかっていうと雑学みたいな変な勉強の方が好きだね」


 それはまた大層な趣味である。


「これまでも帰宅部で、家に帰ってもいろいろ調べものとかばかりしてたから、親にも心配されてたんだよ。『部活とか、友達と遊ぶとかそういうのは無いのか?』ってね。だから、好都合。家じゃなくて好きに勉強できる空間提供してくれるわけでしょ?本当は図書館ごもりしようかとも思ってたんだけど、ここの方が数段居心地よさそうだしね。ありがたや、ありがたや。まぁ、あたしの自己紹介はこんなもん。次の人の番」


 そう言って彼女はボクの方を見て笑った。

 次はボクの番ってことかな?


「…えっとそれじゃあ、次はボクの番ですかね?えっと、ボクは1-2の清水夏樹です。ボクの趣味は、裁縫、というか、フェルトなんかでマスコットやぬいぐるみなんかを作ることです。男っぽくない趣味だって小学生のころにいじめられたりなんかして、中学でもそのせいでイマイチクラスになじみきれなかったりとか…。でも、やっぱりボクは裁縫好きで、高校でも続けたかったし、学校生活も充実させていきたかったので、先輩にこの部に誘ってもらえてうれしかったです。その、ありがとうございます。これからよろしくお願いします!!」


「いや、こちらこそ入ってくれてありがとう。これからよろしく。清水君」


 先輩の笑顔に、ボクはまたやられてしまいそうになっていた。


「それでは、次はわたくしの自己紹介でよろしいでしょうか?」


 今度はメイドさんがそう口を開いた。


「わたしくしの名前は、石田哲也。1-4組です」




 …石田、『哲也』?




「お主、ひょっとして、男なのか?」


 これまで飄々とした様子だった窓際勉強少女こと、布施うららさんに、本日初めて衝撃が走った。

 同様に、ボクも、イケメン男子生徒も衝撃を受けている。

 しかし、ただ一人東雲先輩だけは、


「なんだ、君たち気がついていなかったのか?彼は男性だろう。オーラというか…なんとなくわかるじゃないか」


「…いや、わからんって!!どっからどう見ても女じゃんこの人!!」


 先輩に対しても遠慮なく華麗に突っ込みを入れる布施さん。

 思っていた以上に先輩は天然で、布施さんは常識人みたいだ。


「んで、あの、その、なんで石田君は女装で、しかもメイド服なのかな?」


 先輩への突っ込みは布施さんに任せて、ボクは石田君への質問を開始する。


「なぜ、と言われましても…わたくしはメイドの道に美しさを感じ、メイド道を極めたいと思ったのです。ゆえにわたくしはメイドになりきるために、女装もすればメイド服も着ます。そこに理由などありません。わたくしは瀟洒で完全、パーフェクトな従者、『ザ・パーフェクトメイド』になりたいのです!!」


「なるほど。パーフェクトメイド、か。パーフェクト。いい響きだ。そこまで打ち込めるものがあるというのはいいことだ」


「おほめにあずかり恐縮でございます。部長様。しかし、『パーフェクトメイド』ではなく、『ザ・パーフェクトメイド』です。『ザ』が大事なのです」


「はは、そうか。そうだな。すまない冠詞は大事だな」


 そう言って東雲先輩とメイドさん(に女装した石田君)は微笑みあった。


 その一方でボクは混乱の極致にあった。

 やばい…突っ込みどころが多すぎて、どこから突っ込んでいいのかわかんない。

 同じく突っ込み役のポジションにまわっていた布施さんも、ボクと同じような顔をしている。

 ボクと彼女は自然と目と目が合い、そして、ゆっくりとうなずき合った。

 その瞬間、ボクらは、長年連れ添ってきた夫婦であるかのように、お互いの意図を理解し、同時に同じ言葉を放った。


「「次、いきましょうか」」




「次、俺か?うん。俺は北川はやて。1-3そこの勉強女と同じクラスだ」


「勉強女って…」


 ボクが食ってかかろうとすると、布施さんが「いいから、いいから」みたいなモーションとウィンクで目配せしてくる。

 先輩の美人ぶりに目をひかれていて気がつかなかったが、布施さんの少し子供っぽくておっとりした顔つきも、かなりかわいいということに、その時気がついた。


「俺の趣味、っていっても大したことはない。人間観察と写真撮影くらいか。興味を持った人間について、法律に触れない範囲で眺めたりする。それくらいだ。あまりいい趣味じゃないとよく言われるが、まぁ別にまわりにどう思われようとそれほど困ったことはない。一応ここの部活に入らせてもらうことにするが、特に俺にはそこまで熱く語れるようなものはない。まぁそれでも、数合わせぐらいにはなるだろう?」


 そう言って彼はそっぽを向いた。

 うわぁ…なんだかやな感じだなぁ…。






 勢いで高校生活の部活動を決めてしまったけれど、ボクの選択は正しかったのだろうか?

 メンバーの自己紹介を聞いていて、少しだけ不安になった。









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