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ついてない悪魔 3

 ホッパーは、青年の遺体を前に呆然としていた。

 まだ魂を回収していないというのに、そこには魂がない。

 すでに何者かが回収していったのか、あるいは、“奇跡的に”天国へ送ってしまったのか。

 明白なことは、目の前に横たわっているオーガスト・スミスの肉体が、間違いなく死亡しているということだった。


「ばかな」

 遺体の上に屈み、顎を無理やりこじ開けて口の中を覗き込む。

 やはり、ない。

 この肉体は空っぽだ。

 悲愴感がそのまま弱々しい悲鳴になり、ホッパーは屈んで周囲を必死に探した。

 ベッドの下は、カーテンの裏はと、尻尾の影を探る犬のように見回したが、無論、魂なんてものは、そんなところに転がっているような代物ではない。

 結局、部屋の四隅に溜まる埃以外のものを発見できないまま、彼はよろよろと立ち上がった。

 こみ上げてきた怒りで、拳が震える。


「ふざけやがって、チクショウ!」

 ベッドを蹴飛ばそうと足を引く――が、靴に傷がつくと困るので、床を踏み鳴らすにとどまった。

 くそ、冷静になるんだホッパー。

 この靴はオーダーメイドで昨日仕上がったばかり――じゃなくて。

 ホッパーは噛み締めた歯の隙間から息を吸い、熱くなった肉体を冷やした。


 目を閉じ、頭の中を整理する。

 これはまだ想定内の出来事だ。

 廊下であの天使とすれ違った瞬間から、こうなっていることは予測できていた――出来れば、信じたくはなかったけれども。

 そして自分は、その事実を確かめるためにここへ来て、今その真実が明らかになった。

 それならば、次にすべきことは明白だ。

 天使を追うこと以外にない。


 ホッパーは白いオーガストの肉体を見下ろしながら、ホワイトブロンドの男の姿を、サングラスの奥に鮮明に思い描いていた。

 あいつが攫っていったのか、あるいは天国へ送ったのかはわからないが、事情を知っているとみて間違いない。

 とにかく、まだ間に合う。

 牙を剥いて唸ると、ホッパーは猟犬のごとく霊安室を飛び出した。


 階段を風のように駆け上がる。

 だが、追跡に燃える彼の出鼻を挫くように、一つ目の踊り場を曲がったところで、目の前に巨大な何かが立ちふさがった。

 それは熱くて、柔らかくて、しかし、弾力性のない誰かの腹だった。

「おうっ」

 腹は苦しげにうめくと、胸に飛び込んできたホッパーの二の腕を掴んだ。


 まさか肉の塊が階段を塞いでいるとは思わなかった。

 ホッパーは慌ててその胸から顔を上げ、吠える。

「おい、どけ……!」

「気をつけてくれ、腹のおさまりが悪いんだ。もどしちまうよ」

 腹の上に据えられた肉付きの良い顔が、その図体に似合わぬ高い声で、慌てるホッパーに対して暢気に言った。

 鼻と頬が赤らんでいて、まるでブリキ人形のようだ。

 彼は豚のようにつぶらな瞳でしげしげとホッパーを見つめると、ぱっと表情を明るくした。

「うん? お前、マイケルじゃないか、マイケル・ホッパー!」

 ホッパーの背中を親しげに叩きながら、嬉しそうに贅肉を震わせる。

 聞き覚えのある声にますます嫌悪感を募らせたホッパーは、男の肩を押して身体を出来るだけ離した。

「マイケルじゃない、ミックだ! 何度言ったらわかるんだ、バディ・グリージー!」


 それは、同じ地区で働く低級悪魔だった。

 ワンダーエッグに手足が生えたかのような肥満症の中年男は、薄くなった頭をかきむしりながら、人懐っこい笑みを浮かべている。

「久しぶりじゃないか、ここで何をしてるんだ? 魂を狩りに来たのか?」

「そんなとこだ。悪いが俺は先を急ぐ」

 ホッパーは無愛想に答えると、彼をすり抜けて立ち去ろうとした。

 しかし、バディは掴んだ腕を強く引き戻して、「まあ待てよ」と言う。

 その力があまりに強いので、危うく再び彼の胸に飛び込むところだった。

「何だよ!」

 バディを睨み、次いで掴まれた腕に視線を落とす。

 追うべき者のことも気になるが、今さっきまでフライドポテトを掴み食べていたのではないかと疑いたくなるようなバディの指も気になった。

 ああ、俺のアルマーニに食い込んでいるじゃないか。


「なにをそんなに慌ててるんだ」

 バディはのんびりと言う。

 世の中の悪魔が全員、自分と同じように暇なのだと思い込んでいるに違いない。

 そんな彼を、蔑むようにじろりと見る。

 冗談じゃない、俺は五分あればサウナに篭りたいほど忙しい毎日を送ってるんだ。

 そして今この一秒で、俺は階段を何段駆け上がれるんだ?

「関係ない」

「手伝おうか?」

「必要ない」

 猫の手だったら借りたい――けれども、油でベタついた手は御免被る。

「そうだマイケル、いや、ミック。実は美味い話があるんだ」どうしてもこの再会を逃すまいとしているのか、バディはしつこく言った。「お前にだけ話してやろうと思って――」

「申し訳ない!」ついに痺れを切らすと、ホッパーはちっとも申し訳なくなさそうな声で怒鳴った。「急いでるんだよ、わかるだろ!」

「わかった、わかった。怒鳴るなよ。俺はお前に、いい話をしてやろうと思っただけさ。同級のよしみだろ?」

 バディはなだめるようにホッパーの腕を叩き、手を離して、降参するように肩の上まで挙げた。


 時間を三十分くらい無駄にした気分だ。

 おまけに、スーツに油染みが……いや、今はそれどころではない。

「ありがたいが、今はだめだ! またな」

 ホッパーはすぐさま走り出し、階下に言い残した。

「そうかい、残念だよ。ま、せいぜい頑張んな。そういえばさっき、妙なやつを見たぜ。もしかしたら天使かも――!」

 バディが叫んでいる。

 遠のくその声を聞きながら、今そいつを追ってるんだよ! と、ホッパーは胸中で毒づいた。


 それにしても、美味い話ってなんだったんだろう。

 もしかして、失った魂を取り戻すより簡単に、ノルマを達成できる話だったりして?

 そう思ったものの、すぐさま首を横に振った。

 そもそも、悪魔の言う美味い話が、美味かったためしなどないのだ。

 あいつは俺が慌てているのを見て、弱みに付け込もうとしているに違いない。

 信じられるのは、己のみだ。


 エントランスを出て、ステップの上から駐車場を見渡す。

 いよいよ姿を消そうとしている太陽がギラリとサングラスを刺したが、遮光板なみに濃いスモークは、完璧に彼の瞳をガードしていた。


 子連れの父親、老夫婦、若い看護師たちの一団、赤いコートの女――ぐるりと駐車場を見回し、そしてついに見つけた。

 背の高い、白い男の後姿だ。

 駐車場を出て、歩み去ろうとしている。

「おい待て!」

 ホッパーはステップを飛び越えた。

 間に合った! ――そう確信して、全力疾走で男に向かう。


 しかし、その男を凝視するあまり、彼には迫り来る赤い魔の手がまるで見えていなかった。

 両手を広げて斜め前から駆けてくる、赤いコートにサングラスをかけた女の姿が。


「ミック! 私も会いたかった!」

 彼女がそう叫んだとき、初めてホッパーは彼女の姿を捉えた。

 自分の懐に飛び込んでくる。

 避けるには遅すぎた――。


 彼女にとっては、どうやらドラマの感動的な再会シーンであるらしかった。

 しかし、ホッパーにとっては、トライを猛烈なタックルによって阻まれる、ラグビーの試合中継のようだ。

 内臓から搾り出された自分のうめき声を聞いて、彼の試合は終了した。

 ついてない(アンラッキー)




 悪魔は、食事を取らない。

 しかし、それはあくまでも“必要がない”からであって、食事ができないわけではない。

 以上の点を踏まえた上で、なおかつこのホッパーという悪魔の性分を考慮すれば、彼がオールドヨークの夜景を一望できる都心ホテルの最上階で、香草が香る子羊のローストを前にしていても、とりわけ違和感はないだろう。

 ここは会員制のレストランで、ミック・ホッパー氏は駐車料金も無料になるゴールドパスを持っている。


 彼の向かいには、黒いイブニングドレスに身を包んだ若い女が座っていた。

 アンジェラ・グラットと名乗るその女は、グラマラスな肉体に相応しい整った顔――どこかで見たことのある顔――をしている。

「女優だと思うんだが……」と、周りは眉をひそめるが、どうしても名前を思い出せない。

 彼女はそんな存在だった。

 黒い巻き髪は緩やかに胸元に垂れ、男たちの視線を、嫌でもその谷間に向けさせる。

 艶のある小麦肌に、黒薔薇色の唇、そして長い睫毛に縁取られた大きな瞳。

 その瞳は金色で、瞳孔が縦に細長く、ネコのようだった。


 サングラスを外したホッパーも、同じく不適に光るその瞳を露にしている。

 だが、アンジェラをネコとたとえるのなら、彼はキツネのほうが雰囲気に合う。

 もっとも、彼がキツネほど狡賢かったなら、この物語は始まりもしなかったわけだけれども。


 二人は、まるで溶け合うミルクチョコレートのように微笑みを交わしていた。

「機嫌を直してミック、マイハニー。私、あなたに会えて嬉しかったのよ」

 喉を鳴らすような甘え声で、アンジェラは言った。

 頬杖をつき、ホッパーを上目遣いに見つめる。

 それに対して、彼は顎を上げて微笑をたたえ、彼女を見つめ返した。

 愛を語るような優しい声で、囁くように言う。

「アンジェラ、ベイビーガール。俺の後頭部を陥没させるくらいだ。勢いに愛を感じたよ」


 アンジェラは肩をすくめ――そうすると、胸の谷間がいっそう際立つ――もじもじと身体をゆすった。

「陥没なんてしてないわ。あなたの頭蓋骨は完璧よ、スウィーティー」

「いいや、マイ・セクシー」ホッパーは悩ましげにため息をつき、ゆるゆると首を振った。「コロンブスの卵のように、俺は後頭部で立ってみせるだろう」

「バカを言わないで。たんこぶができただけよ、ダーリン」

「どっちだって同じことだろう、ラヴ」

 そうして二人は黙り込むと、うっとりと――火花が散るくらい――見つめあった。


 その熱いやり取りを、先に切り上げたのはアンジェラだ。

「何よ。せっかく再会を喜んでいるのに、いつまでも女々しいわ。頭蓋骨陥没なんて、五分で治せるくせに!」

 どすの利いた声で言うと、彼女はナプキンで唇を拭い、それをテーブルの端に叩きつけた。

 短い鼻息をつき、ワイングラスを空ける。

「ああ、治せるさ、現にもう治ってる。ただし、十五分もかかった!」ホッパーも眉間に深くシワを刻むと、片方の牙を剥くように唇を引きつらせた。「しかも魂には逃げられちまうし。愛してるよアンジェラ、だけど最悪のタイミングだった!」

 抑えていた怒りが爆発して、彼はわめくように怒鳴った。

「魂って、何のこと?」

「なんでもない!」

 ああ、怒りに任せて自分の失態を吐露するなんて、まったくどうかしてる。

 ホッパーはテーブルに右肘を突き、その掌に顔の半分を預けた。


 頭の中が混沌としている――魂は手に入らなかった――事情を知っているであろう男は取り逃がした――しかも、完全無欠のこの身体が傷ついた。

 どれも許しがたい最悪の出来事だ――とりわけ、魂が手に入らなかったことがもっとも深刻――いや待て。傷は治ったとはいえ、この完璧な肉体が怪我をしたという事実のほうが問題なんじゃないか?

 今まで、一度も血を流したことなんてなかったこの肉体が――おいおい、そんなことより、なぜすぐに男を追いかけなかった?

 もう少しで追いつけたのに――冗談じゃない、頭蓋骨が陥没しているのを放っておいて、痕でも残ったらどうするんだ。

 何を。魂が手に入らなければ、どのみちこの肉体はおしまいだ――しかし、無事に魂を手に入れたところで、頭頂部にハゲが残ったら? 魔力で見えなくするのにどのくらいかかる? それに、たとえ治ったところで「ハゲた」という過去までは消えないんだぞ。

――というか俺は、こんなところで食事をしている場合なのか?


「ミック?」

 アンジェラの声に呼び戻されたとき、ホッパーの中の怒りは半分ほど相殺していた。

 そうだ、起こってしまったものはどうしようもない。

 次の手を考えるか、開き直るかしかないのだ。

「いや、なんでもない」もう怒っていないがこれだけは言わせてくれ、というような口調で言った。「とにかく、傷一つ治すのだって、大変な労力を使うんだ。俺たちは低級悪魔なんだぞ。手品程度の魔力しかないんだから」

 すると、アンジェラはフンと鼻を鳴らした。

「“俺たち”なんて言わないで。私だって低級だけど、あんたなんかより腕も魔力もあるんだから」

 そう、私たちは対等ではないのよ、というように、アンジェラは冷たい笑みを浮かべた。

 ホッパーの中に残った怒りは、どうやら彼女の怒りを下回ってしまったらしい。

 痛いところを突かれた気がして、彼は小さく喉を鳴らした。 

「待て待て、そういうのはやめよう。つまり、お互いを蔑むのは」

「お互いじゃないわ、一方的よ」


 ホッパーは反射的に言い返そうと開いた口から、言葉はでなかった。

 その口を開いたまま、尋ねるように眉を上げたが、アンジェラはまっすぐに彼を見つめたまま、説得するように頷いた。

「私は、あなたより強いの。腕力も、魔力も」

「でも、」

「この関係を終わらせられるのは、私。主導権を握っているのは、私なのよ、マイケル」

「おい、俺はミッ――」

「あなたには命令出来ないわ、マイケル・ホッパー」アンジェラは勝ち誇ったように微笑んだ。「なんて呼んで欲しいのか、言ってごらんなさい」

「……」


 低級悪魔アンジェラ・グラットは、ホッパーより数年早くこの街で働いていた。

 やがて二人はスポーツジムで出会い、意気投合して恋人を演じる仲となる。

 二人とも美しい肉体と至高のブランド品を所有し、それらを常に磨き続けることに骨身を惜しまない、数少ない同士だったのだ。


 だがしかし、意気投合した悪魔が味方かといえば、それは断じてイエスではない。

 たとえ恋人を演じていても両者の間に情はなく、ただ、あらゆるものを所有したいと思う悪魔同士の、利害関係の一致でしかないのだ。

 ホッパーが恐れていることは、彼女に弱みを握られてしまうと、自分までも所有物にされかねないということである――が。

 状況から言って、すでに彼は彼女の掌に落ちていた。

 というよりは、はじめから。

 同じ低級とはいえ、彼女のほうが魔力が数段上だったのだ。

 もちろん、本人は断固として認めない――この世に生じた瞬間から、敗北が決まっているなどということは。


「まあ、いいさ。好きに呼べよ、マイ・ラヴ」

 どうにか平静さを保つと――本当はやりきれない気持ちにさいなまれていたが、寛大さは良い男の美徳である――椅子の上で姿勢を正し、ナイフとフォークを上品に使って、肉を一切れ味わった。

 人間を演じるならセレブが良い。

 そしてセレブなら、マナーも良くなければならない。

「ところで、なぜあの病院に?」


 すると、アンジェラは、今までの怒りを忘れたかのように微笑み、「あなたに会いたかっただけ」と甘い声で言って、同じように肉を口に入れた。

 再び、恋人ごっこを始める。

「だって、一月も連絡をくれなかったわ。もしかして、行方不明になったんじゃないかと思って」

「行方不明?」

「ええそう。心配したんだから」

 アンジェラが深刻そうに眉を寄せるので、ホッパーはこの女ドラマを見すぎたな、と思った。

「行方不明とは大袈裟な。君はそんなに心配性だったのか?」

「大袈裟なんかじゃない」もどかしそうに首を振ると、アンジェラはホッパーに顔を寄せて、抑えた声で言った。「あなたの前にこの街に派遣されていた悪魔、知ってるでしょう?」 

「間接的にはな。彼がどうした?」

「行方不明なのよ。地獄に強制送還されたって聞いたけど、実際は、戻らなかった。忽然と消えてしまったの」


 赤い唇からこぼれだすアンジェラの囁き声には、ゾクッとするような妖艶さと不気味さがあり、ホッパーは無意識に生唾を飲み込んでいた。

 そして、そんな話はまったく信じられないと――思っているように見えればいいと思いながら――静かに笑った。

「まさか。悪魔が行方不明になるなんて。地獄の監視下から逃げられるわけがない」

「そうよ。だけど確かに、行方がわからない。地獄にいるのか、地上にいるのか――天国にいるのか」誰にもわからないの、と言って、アンジェラはきらりと目を光らせた。「それどころか、上級悪魔たちはこの事実を語ろうともしていないわ。もし彼が罰を恐れて逃げ出したのだとすれば、上は全力で彼を探させるはずなのに」

「上級悪魔に何かされたんじゃないか? あいつらは、色々な拷問方法を思いつく」

 ホッパーは顔をしかめた。

 近いうちに、自分も辿るかもしれない道だ。

「別に珍しいことじゃないだろう」強がって言う。

「そうかしら。でももう三年よ? 彼らは、飽きたら開放してくれるはずじゃない」

 “してくれる”という言い方に、低級悪魔らしい卑下の響きがある。

「だから、まだ飽きてないってことだ」

 そう、上級悪魔の折檻が続いているのだ――三年も。

 何だこの会話は、とホッパーは思った。

 まるで、自分の首を絞めているような気分だった。


 彼が話題を変えたがっているのを、アンジェラは見抜いたらしい。

「とにかく気をつけてほしいの。あなたみたいに気の合う悪魔は、地獄にはそういないから」

 珍しく、彼女は素直にそう言って、話題から引き下がった。

 そして、逆にもうこの話はしないで、というように、いつの間にか満たされていたワインを一気に飲む。

「ああ。気をつけるよ、ベイビー」ホッパーはなんとなく怪訝に思いながら、自分もワイングラスを傾けた。「俺もお前と離れ離れにはなりたくない」


 前の悪魔の身に、何が起こったのかはわからない。

 しかし、それは今のホッパーにとって、決して他人事ではなかった。

 不穏な何かは、確実に自分にも迫ってきている。

 とにかく、まずは奪われた魂を取り返さなければ。

 見失ったあの男を、探し出す必要がある。


 決意を胸に、ホッパーは熱いワインを飲み干した。

 そして――小さく、しゃっくりをした。

 とりあえず、夜が明けてからにしよう、もしかしたら最後になるかもしれない夜だから――そんな甘い考えが、ワインと共に胸中で燃えはじめていた。

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