みんなどこへ行った?
クライン:
「みんな、大丈夫か? 怪我をした奴はいるか?」
ケイ・タラ:
「はは……俺は大丈夫だ……」
「まあ、あまり役には立てなかったけどな」
……
「心配するな……」
「たとえ、お前がどれだけカッコよくても……」
「誰もお前のフィギュアなんて買わないからな」
「ヒヒヒ……」
クライン:
「サマラリス、まだ緊張しているみたいだな」
……
「なるほど……」
「そういうことか……」
「無言なのは、緊張しているからなんだな」
「うん……」
「そう考えると納得できる……」
「恐怖のせいで、頭の中で一人テレビ番組を丸々一本放送していた俺が言うのもなんだけど……」
……
クライン:
「それで、セシリアは?」
セシリア:
「私は大丈夫……」
「かなり魔力を消耗したけど……」
……
「はぁ……」
「なんて優しいお嬢さんなんだ……」
「心配しないでください、セシリアさん」
「このモブは、あなたの宣伝のために全力を尽くしました」
「だから……」
「あなたこそ、この番組のスターです」
「あの役立たずの主人公なんかじゃありません」
セシリア:
「フィン……大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
「もちろん……」
「素晴らしいお嬢さん……」
グルルルル……
……
「……」
「いや……」
「今はやめてくれ」
「頼むから……」
グルルルル……
「くそっ……!」
ケイ・タラ:
「はははは!」
クライン:
「どうやら、誰か腹が減っているみたいだな」
……
「なんで今なんだ!?」
「俺の胃は、もう空腹に慣れたと思ってたのに!」
セシリア:
「この戦いの後なら、昼食を取って休んでもいいと思うよ」
クライン:
「ここは三十階だ」
「まずは体力を回復しよう」
ケイ・タラ:
「ようやくか!」
「飯の時間だ!」
サマラリス:
「昼食……」
「昼食……」
「おお……」
……
「お前、喋れたのか!?」
「『昼食』って聞いた瞬間、緊張が消えたじゃないか」
「なんて謎の男なんだ……」
「いや……」
「ただの腹ペコか」
……
「はぁ……」
「これは……」
「肉……」
「パン……」
「しかも、野菜まで美味しそうだ……」
「見るな……」
「俺の胃……」
「今は俺を裏切るなよ……」
グルルルル……
「だから黙れって!」
「なんで言うことを聞かないんだ!?」
セシリア:
「私、食べきれないくらい持ってきたから……」
「みんなで分けよう」
……
「……」
「彼女は……」
「天使だ」
「ありがとう、監督……」
「初めて……」
「お前らが正しいことをしたぞ」
……
「はぁ……」
「これが……楽園……」
「まるで、初めて食事をしたみたいだ……」
「彼女を……俺の嫁にしたい……」
……
「くそ……あの二人の老人め……」
「俺には残飯と骨ばかり食わせて……」
「絶対に許さない」
「まあ……」
「確かに俺は奴隷だけど……」
「奴隷にだって権利はある!」
「この迷宮から出たら……」
「今度はお前らが俺に仕えるんだ!」
「ワハハハハ!」
クライン:
「フィン、お前……かなり久しぶりにまともな食事をしたみたいだな」
……
「チッ……」
「分かりきったことを言うなよ、偽主人公」
「ゴホン……」
「いや……」
「皆さん、食事をありがとうございます」
ケイ・タラ:
「ああ……」
「お前、まるで腹を空かせたモンスターに身体を乗っ取られたみたいに食ってたぞ」
……
「誰が言ってるんだ……」
「さっきまで土遊びしてた子供が……」
「ヒヒヒ……」
「お前の正体、視聴者に全部バラしてやったからな」
だが、俺の口から出た言葉はまったく違った。
「はは……」
「俺って、そんなふうに見えましたか?」
サマラリス:
「ん……ん……」
……
「くそ……」
「お前、緊張してるのか?」
セシリア:
「ほら……」
「もうからかうのはやめてあげて」
「気にしなくていいよ、フィン」
「お腹いっぱいになるまで食べて」
……
「はぁ……」
「やっぱり天使だ……」
「間違いない」
「もしかしたら……」
「これが、あれだけ苦しんだ俺へのシナリオからのご褒美なのかもしれない」
「俺も、彼女を幸せにするために全力を尽くさなければ……」
グルルルル……
……
「……」
「あ」
「幸せの時間、終了」
セシリア:
「フィン……まだお腹が空いてるの?」
「い、いや……」
「そういうわけじゃありません」
「ただ……俺の胃が、この素晴らしい食事を喜んでいるだけで……」
グルルルル……
……
「くそっ……」
「俺の胃……」
「今は俺を裏切るなって言っただろ!」
ケイ・タラ:
「ははは……」
「どうやら、ただの空腹ってわけでもなさそうだな」
「実は、俺も同じ感覚なんだ」
……
「え……?」
ケイ・タラ:
「ちょっと用を足してくる」
……
「お前……実は、とんでもない大物だったのか!?」
ケイ・タラ:
「何?」
……
「いや……」
「なんでもない」
「ただ……」
「お前を見直しただけだ」
ケイ・タラ:
「フィン?」
「はい?」
ケイ・タラ:
「一緒に来てくれるか?」
「周りを見張っていてくれ」
「もちろん!」
「任せてください!」
……
「さて、視聴者の皆さん……」
「俺はついに真実に気づいた」
「ただの役立たずな脇役だと思っていた男……」
「実は、モブが最も恥ずかしい瞬間に助けてくれる偉大なキャラクターだったのだ」
「今日から……」
「俺がお前の評価を変えてやるぞ、ケイ・タラさん」
ケイ・タラ:
「ははは……」
「何を言ってるのか分からないが……まあいい」
「ほら、長くなる前に行こう」
「はい!」
---
ケイ・タラ:
「ここで待っていてくれ」
「俺は少し離れたところで周囲を見ている」
……
「よし……」
「まずは……一礼」
……
「ありがとうございます、偉大なる旦那様」
……
「さて、視聴者の皆さん……」
「プロのモブである俺には……」
「ここで使うべき特殊スキルがある」
「恥ずかしいシーンをカットするスキル」
「ご安心ください……」
「重要な場面は一切見逃しません」
「それでは、しばらくお待ちください」
「はぁ……」
「どうか、もう一度この偉大なる人物に投票してあげてください」
「それでは……」
「また後ほど」
---
……十五分後。
「はぁぁ……」
「やっと……」
「自由になった気がする」
……
「まあ……」
「別に、本当に奴隷から解放されたわけじゃないけどな」
俺は声を張り上げた。
「ケイ・タラさん!」
「終わりました!」
……
「……」
「なんでこんな言い方をしたんだ、俺?」
「くそ……」
「まるで、初めてトイレを使えるようになった子供が、母親を呼んでるみたいじゃないか……」
……
「ケイ・タラさん?」
……
「返事がない?」
……
「もう行ったのか?」
「まあ、そうだよな……」
「ここで俺の話を聞き続けるのが趣味ってわけでもないだろうし」
……
「よし……」
「みんなのところへ戻ろう」
---
「おーい、みんな!」
「遅くなってごめん!」
……
「……」
「ん?」
……
「みんな……?」
……
「どこにいる?」
……
「いや……」
「まさか……」
……
「荷物がない」
「食べ物もない」
「みんなが座っていた場所まで……」
……
「まるで……」
「最初から誰もいなかったみたいだ」
……
「ケイ・タラさん?」
……
「クライン?」
……
「セシリア?」
……
「サマラリス?」
……
「……」
「誰もいない?」
……
「待て」
……
「まさか、俺は……」
……
「置いていかれたのか!?」




