第10話 達哉よ、悔いは残すなよ
三々五々と帰りにつく途中で、級友の一人が言った。
「何かやり切れん気持だな。どうだ、みんなで精進落としに一盃飲まんか?」
「一盃呑むって、お前、未だ昼前だぞ」
「良いじゃないか。精進落としに昼も夜も無いよ。達哉の供養だ。なあ、一盃飲もうや」
五、六人が賛同して事は決まった。
早速に高田謙一がスマホを取り出して馴染みの店へ予約を入れた。
彼が案内したのは駅ホテルの二階に在る大きな日本料理の店だった。
テーブル式の和風の個室で静かな宴は始まった。
誰かが、先ず乾杯しようか、と言ったのを後藤が制した。
「一寸待てよ、これは達哉への供養の精進落としだ。乾杯は拙いぞ、献杯だぞ」
「あっ、そうか」
高田謙一は、流石、後藤だな、もう一端の社会人だ、と改めて思った。
静かにではあったが、懐かしい級友たちの集まりで宴は愉しく進んだ。
「それにしても、人間の生命って危ういものだな。ラグビーのスクラムに押し潰されて首の骨が折れ、あっけなく死んでしまうのだからな」
「然し、達哉は二十二年間、時間の中を走り抜けるようにして生きて来ただろう。思い残すことややり残したことは在ったかも知れないけど、中身は充実して濃蜜だったのじゃないか」
「それにあんな綺麗な歳上の人にも出逢えたのだし、可愛い純な年下の恋人にも愛されたんだから、きっと幸せだったと私は思うわよ」
「そうだな、人間、生きている時間の長短じゃ無くて、何を思い、何をしたかが問題なのだな。如何に納得した充実感を持ち乍ら生きるかが重要なのだと俺も思うよ」
高田謙一が言った。
「あいつは俺たちに、生きる、ってことを教えてくれたんだ」
「生きる、って?」
「自分の信じるものに向かって闘い続けることが生きるということだ、ってな」
達哉よ、後ろ髪を引かれることはあっても、悔いは残すなよ!
級友達は心の中で達哉の冥福を祈った。




