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06_食事


 味噌汁の湯気が、テーブルの上でゆらゆら揺れていた。

 焼き魚とほうれん草のおひたし、冷ややっこ。それと、澪の得意な卵焼きが少し添えられている。


「いただきます」

「いただきます」


 一口目で、安心する味だと分かった。

 塩の加減がちょうどいい。ご飯が進む。


「……うまい」

「丹精込めて作ってるからね」


 澪は淡々と味噌汁をすすりながら、こちらをちらっと見た。


「今日、弁当どうだった?」

「うまかったけど」

「なんか感想薄いね」


「澪の作る料理が不味いわけないだろ。いつもありがとう」


 ……ったく、すぐそういうこと言う。

 澪は内心でむずがゆくなりながらも、魚の骨を手際よく外し、平静を装って続けた。


「明日も同じのでいい?」

「頼む」

「じゃ、卵焼き甘めにする?」

「それは最高」


 俺が即答すると、澪はほんの少しだけ口角を上げた。


「……で」


 澪が今度ははっきり俺の顔を見る。


「箸、どうしたの」

「え?」

「今日。箸」


 言い方が短い。

 もう確信してるやつだ。


「……いや、普通に――」

「普通に?」


 澪が目を細める。圧がある。妹のくせに。


「……忘れた」


 観念して言うと、澪は小さく頷いた。


「やっぱり」

「やっぱりって何だよ」

「顔」

「万能すぎるだろ、その理屈」


 澪は箸を動かしながら、淡々と聞いてくる。


「で、どうしたの。食べられたの?」

「そりゃ食べたよ」

「どうやって」

「……借りた」


 俺がぶっきらぼうに言うと、澪は一瞬だけ動きを止めた。


「借りたんだ」

「うん。たまたま、誰かが」

「ふーん」


 澪の声が、妙に楽しそうになる。


「誰かって、誰」

「誰って……」


 答えかけて、やめた。

 別に隠すことじゃないけど、言うとまた面倒になりそうな気がする。


「……誰でもいいだろ」

「よくない」

「よくないの?」

「よくない」


 理屈がない。

 でも澪はそういうところがある。


 俺は焼き魚をほぐしながら、適当に誤魔化した。


「たまたま居合わせたやつ。ほら、クラスの……」

「ふーん」


 澪は納得していない顔をしたまま、味噌汁をすすって――あっさり言った。


「たまたま居合わせた白羽さんか紫乃さんに借りたんだね」


「……は?」

「当たった?」

「いや、当たったとかじゃなくて……なんで分かるんだよ」

「勘」


 さらっと言い切るな。


「明日、予備の箸入れとくね」

「いらねえって」

「いる」


 これも即答。反論の余地がない。


「弁当作りの話に戻してくれ」

「戻ってるよ。弁当の一部」

「箸は付属品だろ」

「大事な付属品」


 澪はさらっと言い切って、今度は少しだけ柔らかい声になった。


「困ったなら、ちゃんと言いなよ」

「困ってないって」

「はいはい。便利な言葉」


 俺はため息をついた。

 でも、悪い気はしなかった。


「……ま、ありがとうな。弁当」

「どういたしまして」


 澪は何事もなかったみたいに言う。

 そのくせ、少しだけ嬉しそうだった

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