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01_白い羽と紫の影

夢を見た――。

焼け落ちる空の下で、誰かが俺の名前を呼んでいる。

世界がひび割れていく。


その中で――

二人の少女が手を伸ばしていた。

一人は、白い光を纏って。

一人は、紫の魔法陣を背に。


どちらも必死だった。

泣きそうな顔をしていた。


――湊。


声が重なる。

どちらの手も、届きかけて――

その瞬間に目が覚めた。


「またかよ……」


天井を見上げたまま、ため息を吐く。

最近、同じような夢ばかり見る。


知らない景色。

知らない声。

なのに、胸だけがやけに痛む。


「お兄ちゃん、遅刻するよ」


ドア越しに水無瀬 澪(みなせ みお)の声が飛んできた。


「今起きた」

「三回目」

「嘘だろ」

「ほんと。あと五分で置いていくから」


容赦がない。


仕方なく起きると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

制服に着替え、階段を降りてリビングに行くと、澪が朝食を準備してくれていた。


向かい合って朝食を取っていると――


「今日も変な夢?」


唐突に言われて、思わず手が止まった。


「なんでわかったんだ?」

「顔」


短い返事。

昔から澪は妙に勘が良い。


「別に。なんでもないよ」


夢のことを話せば、余計な心配をかけてしまうかもしれない。

だから湊は口を閉じた。


「ふーん。それならいいけど」


それ以上は追求してこなかったが、どこか心配そうな目をしていた。


朝食を食べ終わり、身支度を整え、玄関を出て学校に向かおうとした。

その瞬間だった。


「……湊?」


後ろから、やけに柔らかい声がした。

振り向くと、そこにいたのは神代白羽(かみしろ しらは)だった。


幼い頃から家が近く、自然と一緒にいる時間が長くなった――いわば幼馴染だ。

白いカーディガンを羽織って、朝日に溶け込みそうなくらい淡い目をしている。


「おはよう。今日も一緒に学校行こう?」


俺たちはクラスメイトだ。けれど――

こんなに距離感近かったか?


「……ああ」


返事をした直後。


「ちょっと、湊」


今度は、少し低めの声。

電柱にもたれていたのは、夜坂紫乃(よさか しの)だった。


こいつもまた、昔からの幼馴染だ。

何かと張り合ってくる癖に、気づけば側にいる。


「何、先に話してんの」

「違うの。たまたまさっきそこで会って、一緒に学校行かないかって誘ってただけ」


白羽が困ったように笑う。


「偶然ねえ」


紫乃は小さく鼻を鳴らすと、俺の反対側に並んだ。


「……ま、いいけど。とりあえず学校に行きましょ。遅刻するわよ」

「え? もうそんな時間?」

「ここで立ち止まってるからでしょ」

「それは紫乃が喋り出したんじゃ――」

「なにか言った?」


にこりともしていない笑顔。

目だけが細い。


「……なんでもないです」


即答すると、白羽がくすっと笑った。


「ほら、急ごう? 本当に遅刻しちゃうよ」


そう言って、白羽が一歩前に出る。

自然と三人の足並みがそろう。


昔から変わらないはずの距離感。

なのに。

左右から感じる視線が、今日は少しだけ重かった。


住宅街を抜ける交差点に差しかかった、そのとき。

ふと、足が止まる。


――違和感。


理由は分からない。

ただ、空気が一瞬だけ静まり返った気がした。

朝のはずなのに、音が薄い。

風も、鳥の声も、遠い。


「……湊?」


白羽の声が、わずかに揺れる。

紫乃も空を見上げていた。


つられて視線を上げる。

青空は、いつも通り広がっている。


ほんの一瞬だけ――

空の端に、細いひびのようなものが走った気がした。


瞬きをする。

もう何もない。


「……今、何か見なかった?」


俺の問いに、二人はすぐには答えなかった。

視線だけが、わずかに交わる。


「……気のせいじゃない?」


白羽が微笑む。


「そうね。遅刻するわよ」


紫乃も、いつもの調子に戻って歩き出す。


けれど。

二人の横顔は、どこか張りつめていた。


俺だけが、何も知らない。

そんな気がした

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