表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

<8・検索。>

 うわあ、と千夜は思わず声を漏らした。慌てて周囲を見回し、周りの人達が特に自分を気にしている様子がないことを確認して安堵する。此処は図書館だった。基本的な調査はインターネットでやるとしても、古い新聞記事や雑誌を探すためにはやはり図書館に足を運んだ方がいいと判断したためである。

 一緒に来ている憐は、今まさに本棚の方を探しに行ってくれている最中だった。


――明らかに、誰かが情報操作してるよなこれ。


 ツイッターのやり取り。

 それから、例のえぶりちゃんねるの様子。

 確かに岡崎苺子の死はニュースになってしまったが、それでも彼女の詳細な死に際まで警察がメディアに流すとは考えにくい。もっと言うと、知ってはいけない言葉、が絡んでいるということが表沙汰になるはずがないのである。

 にも拘らず、大型掲示板でもツイッターでも、それが共通認識になりつつあるのだ。押入れで死んでいた女性は、知ってはいけない言葉を知ってしまったがために死んだのだ、と。


――誰かが、余計な情報を新聞社とかネットにリークしてるよなこれ。……この状況を拡大させたい、魔術師とやらの仕業なのか?





●新島ノリオ @wka5fgeesa

 返信先: @sakasakanoue

なにそれこわい。

ていうか今記事読んできたけど、コメント欄で変なこと言ってる人がいんね。

知ってはいけない言葉を知ってしまったから、みたいな。何なのか知ってる?



●坂上さんは原稿中 @sakasakanoue

 返信先: @wka5fgeesa

都市伝説ですよ、都市伝説。ほら、昔“検索してはいけない言葉”ってのがあったでしょ?

あれの“知ってはいけない言葉”バージョンがあるんだそう。

検索してはいけない言葉は検索するだけならセーフだけど、知ってはいけない言葉は知るだけでアウトっていう。




 祓うのは苦手だが、見る方の能力ならそれなりに自信がある千夜である。よって、このツイッターのつぶやきで語られているネットニュース記事を身にいき、知ってはいけない言葉に触れているコメントを探してみたのだが。

 それらしいコメントを、見つけることはできなかった。まるで、千夜がチェックしに来ることを見越して、自分の書き込みを消していったかのよう。確かにそのニュースサイトの書き込みは、自分で書きこんだものを後から消せる仕組みにはなっているようだったが――。


――この調子で、知ってはいけない言葉とやらを面白半分で探す人がたくさん出たら……とんでもないことになる。誰かがアタリを引き当てて、さらに被害が拡大する可能性は免れられない。


 過去には事故物件に住みついた地縛霊とか、うっかり肝試し現場から幽霊を連れてきちゃった友達に対処したりなんてこともしたことがある千夜だったが。さすがに、今回は今まで経験したちっちゃな事件とは規模が違っていた。

 正直、相性が悪すぎるのである。千夜の場合は、自分の霊能力でやばいものを感知して、その大本にピンポイントで攻撃を加えて除霊する――というタイプだ。言うなれば、結界を作っているやばい鏡の位置を見分けるのは得意だったし、事故物件かそうじゃないかは写真を見ただけでも大体わかる。そして地縛霊がついている系列ならば、その姿も写真ごしに大体知ることができるし、場合によっては地縛霊の名前も理解できることがあるほどだ。

 それって実は霊能力っていうよりサイコメトリに近いんじゃないの?なんてことを憐に言われたこともあるが、実際自分の能力がどういうタイプなのかはまったくわかっていない。なんせ、きっちり訓練を受けたわけでもないし、拝み屋を目指しているというわけでもないのだから。気づけばちょっと勘が良かったり、友達に忠告しているうちに有名になってしまい、身内の霊的な事件を解決するようになってしまっただけの一般高校生なのである。

 憐もそれは同じ。ただ、彼の場合はある意味千夜よりもシンプルな能力である。彼は千夜と違って、やばいものをなんとなく見えるか見えないかくらいの力しかない。そのかわり、除霊の際は物理攻撃が効く。――一か月前、マネージャーにストーカーしてきていた浮遊霊にキックをぶちかまして強制除霊させた時の光景はマジで忘れられない。一体誰が、幽霊に金的が効くなんて思うだろうか。

 そんなわけだから、高校に上がってからそういう事件があると、憐と一緒に組んで動くことが少なくないのだった。見ることが得意な千夜と、潰すことが得意な憐。二人で組んで動けば、ちょっとした地縛霊浮遊霊くらいは大抵対処ができたからである。

 が、今回はそう簡単なことでもないだろう。今回は、恐らくその言葉を感知した時点で――そしてその時千夜が見てしまった時点でもうアウトだと思われる。仮に千夜を襲ってきた怪異に憐が突撃しても、そうそう躱すことはできないだろう。


――しかも被害者がみんな、ほとんど誰にも助けを求めないで終わってる。助けを求めても意味がない、と思い込んでしまうような情報を手に入れている……もしくは、助けを求められないように思考にロックがかかると思われる。俺も知っちゃったら多分そうなるんだろうしなあ。


 とりあえず、図書館くんだりまで来ていつまでもぼんやりしているわけにはいかない。せっかく、典子からヒントを貰ったのだから。




『“千切村(ちぎりむら)”。……恐らくどこかの地名であるはず。それを探してみて頂戴。魔術師と、何か強い関わりがあるはずよ』




――ちぎりむら、ちぎりむら、ちぎりむら。


 さっきからネットで検索してはいるのだが、ちっともヒットしてこない。ということは既に存在していない村か、その名前そのものが村の正式名称ではない可能性が高いということだろう。もちろん、検索避けなどをしているサイトは別の理由でひっかかってこなくなってしまうわけだが。

 ならば発想を変えてみた方がいいだろうか。

 アプローチできる方向性は二つ。一つは、えぶりちゃんねるに過去に書きこまれていた“両親の土地でやばい何かを掘り当ててしまった建設会社のおっちゃん”の話の詳細を探してみること。もう一つは、“人の足首を持っていく、捧げるという宗教や風習のある土地がないか”を調べてみるということだ。

 前者の事件は、少なくとも事実ならどこかでニュースになっている可能性が高い。後者は、それこそ今憐にやってもらっているように、昔の新聞記事や資料を見つけないことにはどうにもならないかもしれないが。




437:百物語をしたい>>395さん@真夏のこっくりさん

そうなんだよ。

親戚のおっちゃんもさ、正直もう切羽詰まってるから変なものが土地から出てきたら困るわけ。

もうさっさと土地売って、少しでも借金返済に充てたいってかんじだったからさ。

で、本人が建設系の社長なもんだから、上に建ってた家の解体とかも自分でやったんだけど……そうしたらまあ、土地から変なものが出てきたみたいなんだよ

何が出て来たのかは知らん。ただ、おっちゃんは必死で“あれはなかったことにしないとやばい、土地が売れなくなる”とかなんとか、おばちゃんに漏らしてたらしい。おばちゃんもそれ以上の話は聞いてない




――この様子を見るに、出てきたのは“モノ”だった。普通に考えるなら、何かのご神体とか呪物とかお札ってところだよな?


 土地から出てきたものを隠蔽しようとした、というのは歓迎できる話ではないが。ただ、本人が「借金返済のためにさっさと土地を売りたい、こんなものが出てきたのがバレたら売れなくなるから隠さなければ」と思っていたということは、つまりそれを考えられるくらいの正気が残っていたということである。

 明らかに、“知ってはいけない言葉”を知ってしまった人達の反応とは異なっている。モノのヤバさはなんとなく理解していたが、それでも土に埋めるだけで隠すことができると思っていた=霊的に極めて危険なものだとは思っていなかった様子だ。本当にまずいと思ったなら、霊能者でもなんでも呼んでお祓いして貰おうとしていたことだろう。

 言葉より、御神体の方がヤバくない。そんなことがあるのだろうか。

 それとも掘り起こしてしまった時点では、本体の封印は解けていなかったということか。もしそうならば、最終的に彼等は封印をうっかり解いてしまったから、建設会社の人間全員が死亡することになったとも言えるが。


「!」


 建設会社、火災、死亡。そのあたりのキーワードで片っ端から検索していた千夜は、一つのニュース記事を見つけて目を見開いた。

 危ない気配はない、と判断してクリックする。出てきたのは、ヤホーニュースに去年掲載された記事である。


「これ、か……?」




『東京都●●区××町で、建設会社が全焼。


 六月三日早朝、近所の住民が会社のオフィスから煙が出ているのを目撃、消防に通報した。消防の懸命の消火活動も空しく、火は数時間にも渡って燃え続け、会社の敷地内にあった建物三棟全てが全焼した。

 燃えたのは株式会社トクナガ建設の本社で、出火元はオフィスと見られている。併設されたキッチンではなく、オフィス中央から不自然に発火していることから、警察は放火の疑いも視野にいれて捜査しているとのこと。


 近隣住民によると、火の手が上がった午前六時頃、複数人の男性らしき悲鳴が聞こえたという情報がある。

 株式会社オクナガは社宅が併設されており、社長の徳永専一(とくながせんいち)さんをはじめとした家族や従業員の多くが社宅で生活していたという。徳永さんや一部の従業員は、オフィスで寝泊まりすることも少なくなかったとのこと。

 オフィスや社宅だった場所を中心に、焼け跡から三十五人の遺体が見つかっている。損傷が激しく、身元の判明には時間がかかっている模様。ただ、オフィスでなくなっていたうち一人は、社長の徳永さんであると見られている。

 また、遺体の多くは不自然に両足が欠損しているものがあり、警察が原因を調べている。


 徳永建設は一週間ほど前に、徳永専一さんのご両親の家の解体作業を行っており、その上にマンションを建設する話が持ち上がっていたという。警察は、関連性を調べている』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ