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<5・相談。>

「千夜クン、ある意味バスケより拝み屋のが向いてるんじゃないのー?そこまで見えてるって充分凄いと思うんだけど」

「やめてくださいよ縁起でもない!」


 苺子の死体を見つけてしまった、その翌日。ハンバーガーショップで千夜が向かい合ってるのは、同じ部活の先輩である霧生憐(きりゅうれん)である。千夜も179cmと高校一年生にしては長身だが、憐はそれに輪をかけて大きい。バスケ部の二年生のセンターであり、なんと身長は198cmもある。彼と並ぶと、そこそこ背が高いはずの憐が小さく見えるほどだからお察しだ。

 穏やかそうな口調と喋り方に反して結構毒舌。人に対して好き嫌いが激しい反面、非常に友達思いであり、かつバスケの実力は本物。全国区のバスケ部で、一年生からレギュラーを張っているのだから実力がないはずがない。

 そして、霊能者として頼られてしまいがちな千夜の理解者でもあった。理由は単純明快、憐も千夜同様ある程度のものが“見える”タイプだったからである。どうにも、中学の時から怪異に見舞われることが少なくなかったのはお互い様であったらしい。――力の方向性は、千夜とかなり違うものであるようだったが。


「正直、雛子さんはあの後倒れて入院しちゃうし……警察には事情聴取されまくるしで本当に大変だったんですから」


 はあ、と千夜はため息をついた。


「お姉さん、助けてあげたかったな。俺なんかじゃ力不足だったのかもだけど」

「わかってんじゃん。話聞く限り、千夜クンにどうにかなるレベルの話じゃなかったと思うよ。つか、その掲示板の情報が正しいなら、被害者の苺子さん本人が“霊能者ごときにどうにかなる相手じゃない”って気づいてたわけでしょ。多分、相手悪霊とか妖怪とか、そんな次元の存在じゃないよ。誰かが、大怨霊とか大悪魔とか、それこそ邪神レベルのものを呼んじゃった可能性が高いと思う」

「やっぱそう思いますよね……」


 文字か、画像か。恐らく、あの掲示板で助けを求めていて、最終的に怪異に浚われてしまったのが苺子だと思われる。彼女はあのえぶりちゃんねるの掲示板に貼られたアドレスに飛んで、そこで何かを“見て”しまった。それだけで発狂、錯乱したのである。何かを一瞬見た、知っただけで人をあそこまで壊すことができる存在が、ただの悪霊程度であるとは思えない。

 どうにか雛子に聞いた話によると。苺子は、押し入れに引きこもるようになった当初はそれでも多少言葉が通じるような状態であったという。ある程度説得すれば、一時的に押入れから出てお風呂とトイレくらいは行く様子だったと。

 ところが、その様子もどんどん悪化の一途を辿った。しまいには、押入れの中に引きこもって風呂どころかトイレにも行かなくなってしまったのである。あの凄まじい異臭はそのためだったというわけだ。

 さすがに、内側にガムテープを貼って引きこもっていたとは思ってもみなかったようだが。


「岡崎苺子がそのサイトを見たのが深夜だったとして」


 ぱくぱくぱく、とポテトを消費しながら憐が言う。


「それから昨日死ぬまで、大体三日くらいってところ?……これが三日後に必ず死ぬってことなのか、それとも本人がひきこもってたおかげで多少寿命が延びた結果なのかは検証の余地があるね」

「検証しようがないでしょ、他の被害者もいないし。そのリンク先の内容なんか見たら、大抵の人間が無事じゃすまないですよ。ていうか、俺や先輩だって」

「まあ、内容はわからないけどほぼ100パー死ぬんだろうね。良くて廃人ってところ?……世の中には見るだけでSAN値が消し飛ぶような怪物とかもいるからなあ」


 相当やばいものだとわかっているだろうに、相変わらず彼の口調はのんびりしている。暢気というか、危機感に欠けるというか。なんだか毒気を抜かれてしまうとでも言えばいいか。

 おかげで千夜も、ギリギリ冷静さを保って話ができていると言えるのだけれど。


「まあ、警察が妹さんを犯人だと断定することはまずないでしょ。完全な密室だし」


 まあ、唯一不幸中の幸いはその点であるのかもしれない。

 室内に侵入された様子や物色された様子はなく、そもそも内側からドアにも窓にも鍵がかかっていたので泥棒などが入ることは不可能(そして、警察が来るまで千夜も雛子もその場を動かなかったため、部屋の中に潜んでいた犯人がこっそり後で逃げ出すこともできなかったはずである)。

 もっと言えば、押し入れももう一つの密室を形成されている。内側からガチガチにガムテープが貼られて密封されていたのを、他でもない千夜本人が確認しているのだ。

 トドメが、苺子の致命傷になったであろう両足首の傷である。切断されたわけではなく、力任せに骨を脱臼させ、筋を引きちぎって持っていたのが明白の傷だった。あんなもの、人間の力でどうにかなるとは思えない。もっと言えば、引きちぎられた足首が行方不明であるのも大問題である。

 いくら警察でも、今回の事件にはオカルトじみたものを感じずにはいられないだろう。本格的に怨霊やら神やら悪魔やら、を疑ってくれるとまでは思っていないが――ひとまず一番苦しんでいるであろう雛子が疑われなければそれでいい。正直、姉の凄まじい死にざまを見てしまった雛子の姿は、思い出すだけで胸が痛くなるものであったのだから。


「事件の概要はわかったけどさ。千夜クンはそれ、どうしたいわけ?手に負えない事件なのはわかりきってるでしょ」

「だからってほっとくわけにはいかないでしょ。……確かに、掲示板のリンクは切れてたけど。また、同じリンクを貼る人が出ないとも限らない。見ただけで死ぬような言葉とか画像とかがあるなら、なんとかしてそれを抹殺しないとまた犠牲者が出ますよ?ひょっとしたらそれ、俺達や俺達の大事な人かもしれないのに!」

「……相変わらず、変なところで正義感強いというか、お人よしというか。それが千夜クンのいいところなんだろうけどさあ」


 うーん、と苦笑いをしながら言う憐。今回の事件は、高い除霊能力を持つ憐であってもどうにもならないだろうということは千夜もわかっていた。それでも話をすることにした理由は、一人で抱え込むことに限界を感じていたからというのもある。

 同時に、憐ならば自分よりも冷静な判断を下してくれると思ったのも。毒舌家、人の好き嫌いが激しい憐だったが、千夜自身はその中でもかなり“好きな人間”の部類に入れて貰っていることを知っているのである。そもそも、憐はバスケが本気で好きな人間のことは、ほぼ無条件で大事にしてくれるタイプである。反面、練習をサボったり、バスケやその仲間を大事にしない人間は大人だろうが容赦なく毒を吐くことでも知られているが。


「俺が気になってんの、まずそこなんだよ」


 いつの間にか、憐の手元から山盛りのポテトが消えていた。一体いつの間に。Lサイズを頼んだのは間違いないはずなのに。

 憐が大食いなのは有名な話だった。それでいて練習量が凄まじいせいで全然太らないという。身長198cmで79kgというのはむしろかなり痩せている方ではないのだろうか(ちなみに千夜の方はだいたい179cmで65kgといったところである)。


「あのリンク、誰が貼ったんだと思う?仮に、リンク先には邪神の名前とか画像がどばーって表示されてたんだとして。……リンク貼った人間が、それを見てないなんてまずあり得ないよね?」

「!」

「気付いた?……リンクを貼った人も発狂していて被害を増やしてやろうっていうやぶれかぶれ状態になっていたか……それとも冷静に、誰かに害をなす目的で貼ったのかで状況が変わってくるんだよ。そして後者の場合、その人物は画像か言葉を見ても平気だった可能性が高いってことになる。見るだけ、知るだけでたくさんの人の元に邪神を呼んじゃうようなものを見てさ……平気な人間っていったら、そいつももう人間じゃなくない?」


 言われてみれば、そうだ。

 同時に、そいつがもし本当に不特定多数に被害を齎すためにリンクを貼ったのだとしたら――そいつがまた同じことをやらかす可能性は高いということになってくる。


「邪神本体はどうにもできなくても。リンク貼った人間を抑えて封じ込めれば、これ以上の被害拡大は防げるかもしれないよ」


 それに、と憐は続ける。


「本体に関しても、心当たりがまったくないわけじゃない。……千夜クンに見せてもらった、えぶりちゃんねるの掲示板なんだけど、気づいた?“知ってはいけない言葉”のリンクが貼られる直前に出てた話題。どっかの建設会社の人達が火事で死んだっていうアレ。……死んだ人たちがみんな、足を引っこ抜かれてたっていうでしょ。さすがに、無関係じゃないんじゃないかな」

「た、確かに……」




458:百物語をしたい>>395さん@真夏のこっくりさん

怖いのは、おっちゃん達が結局何を掘り起こしてしまったのかまったくわからないってこと

そんで、その火災が完全に意味不明だったんだよな

警察が調べたんだけど、火の気がまったくない事務所(当然、禁煙)でいきなり火の手が上がったとしか思えないような有様だったらしい

しかも、おっちゃんの体が一番よく燃えてた。生きた状態でおっちゃんの体に火がついて発火したとしか思えない、みたいなこと言われて俺もおばちゃんも大混乱

というか、会社の人達の死因がみんなわけわかんないんだと


火事だとさ、実は死因の大半は焼死じゃなくて一酸化炭素中毒で死ぬんだけどさ

会社にいた人達は“全員”焼死してるって言われたんだよ。体に火がついて生きたまま燃えて死んだみたいだって

なんか生活反応?みたいなのがあったとかなんとか


その上で、全員妙なんだと。

何故か、死んだ奴らがみんな足首から先がなくなってたらしい。生きてる時に無理やり引きちぎられたみたいになくなってるって

正直、人間の両足首を引きちぎるって人間技じゃないんだけど……




 スレッドに書かれていた内容を思い出して、千夜は血の気が引く思いがした。

 そうだ、その話が出た直後に、誰かが“知ってはいけない言葉”を書きこんだ。これは偶然か?否、到底そんなはずがない。

 この話が書きこまれたことで、なにかを引き寄せてしまったということはないだろうか。


「とりあえず、どうしても今回の件に関わるならやるべきことは三つかな」


 あむ、とハンバーガーに食いつく憐。


「一つ。近くの拝み屋かなんかに依頼すること。二つ、この事件について調べること。建設会社で火事が起きて、しかも死体が軒並み足首がなくなってる……なんて事件。釣りじゃなくて本当に起きたことっていうなら、絶対どっかでネットニュースにでもなってるでしょ」

「です、ね」

「で、三つ目は……足を引きちぎって供物として持っていくタイプの神様とかがいないか調べることかな。ただ、これはかなり慎重にやった方がいいと思う。検索する過程で、自分でヤバい言葉を引き当てないとは限らない。この言葉で検索したらまずそうだな、とかここをクリックするのは嫌だな、って思ったらその直感に従うこと。俺の経験上、そういう危機回避能力は千夜クン俺よりも高いから」

「はい……」

「俺も出来る限り協力はするけど、あんま期待しないでね。見る方の力は、俺千夜クンよりだいぶ下だしさ」

「ありがとうございます!」


 やっぱり、憐は凄い。心の底から助かったと思いながら千夜は頭を下げたのだった。

 本当は、何も知らないフリをして逃げてしまった方が良いのかもしれない。でも、どうしても苺子の最後の顔と、雛子の叫び声が脳裏に焼き付いて離れないのである。

 ここで逃げたら一生後悔する気がしたのだ。それこそ同じ目に、他の友人や家族が遭わない保証はどこにもないのだから。

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