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<21・暴走。>

 神様の力が暴走を始めている。その性質は、最初に自分が神様を鎮めた時とは別物になりつつある、と遠田は言った。


『本来ならば、神の名前を見ても幹部の魔術師ならば問題ないはずだった。それは、神へ供物を捧げる儀式の担い手として、いわば神の信頼を得ていた証でもある。しかし、平川南々帆は名前を見て呪いを受けた……もはや、神の姿や名前を見ても問題ないのは、現在の神に祭祀として認められた者のみだろう。恐らくこのままでは、この私さえ受け入れられなくなるに違いない』

『ど、どうすればいいのですか、教祖様……!』

『やむを得まい。神の力を弱め、お眠り頂くほかないだろう。不幸中の幸いとして、私は生き残り、お前を始めとする魔術師も何人か残っている。その力を結集し、再度封印を施すしかあるまい』


 最後に神が要求した供物が、“一日で、人間の足一対”だったのであろうことはわかっている。ならば、今回祟りでの強制的な徴収とはいえ、本来要求したよりも多くの供物を即座に得たという状況だ。いわば飽食気味であるはず。満足しきっているであろう今の神を眠らせるだけならば、残った戦力でもそう難しいことではない。

 神の力は、信仰されることで強化され安定されていくというのは先述した通り。ならばその存在を知るものがいなくなり、信仰するものが減れば力は削がれるはずである。これが暴れ狂っている状態の神であるならばかえって火に油を注ぐ結果になろうが、神が満足して眠っている状態ならばその心配も当面はない。

 あらゆる力を結集して神を眠らせた遠田や濱田ら幹部は、その御神体を焼けた本拠地があった土地の地中深くに埋めたのだった。誰かにその姿を見られないように、知られないようにと。


――御神体を見ても祟りを受けないのは、教祖様と我ら魔術師のみ。とにかく、そのような存在があることそのものを抹消しなければならないと考えたのだ。


 教団のホームページから、御神体を象ったレプリカを掲げた旧建物の写真も削除したし、神様を元とした教義の内容にも手を加えた。散々講義を行ってきた地元の人々の記憶こそ消せないが、それも何十年と経てばいずれ忘れ去られるはずと考えたのである。

 山の奥、それこそ樹海かどこかに御神体を埋めるということはできなかった。というのも、人気がない場所の多くは裏を返せば自殺の名所となりがちなのである。そういう場所に神様を埋めたならば、人々の恨みつらみを吸収してますますその性質を悪化させることが懸念されたからだ。

 神様を埋めたあと建物の撤去も土を均す作業も、それからその上に一般に売り出された家屋を作るのも全て教団の息がかかった建設会社に行わせた。そのときには忙しい時間を押してでも、教祖か幹部の誰かが立ち会うようにもした。その結果、少なくとも暫くは神様の大きな祟りを回避することに成功したのである。

 確かに、地中の御神体の影響を受けやすい住民が“少々の”被害を受けることはあったようだが、それだけだ。

 問題は――神様を失ったことで、教団そのものの力が弱くなったこと。例の事件を知って神様を恐れ、たくさんの人が離反してしまったというのもある。それから、神様を祀る幹部たちの中でも最も力を持っていた青年、秋風英が一部の信者たちを引き連れて教団を離れてしまったことも。


『私は、遠田様のことを誰より尊敬していたのです』


 彼は最後に、自分たちにそう言った。


『だからこそ失望しました。よりにもよって、手に負えなくなったからと神を手放して、地中深くに埋めて封印しようなどと。そのような冒頭を、遠田様自らが行ったなど!申し訳ないですが、もうついてはいけません。私は私なりのやり方で、我らの神への忠義を通させて頂きます』


 教団の力が弱くなり、お抱えの建設会社も業績悪化による倒産。それ以外の多くのものが、教団の預かり知らぬところで動き、あるいは壊れ始めたのだった。まるで、神を大切にしなかった罰だとでも言うように。

 その結果。教団とはまったく無関係の、何も知らない徳永建設があの土地に触れてしまったのだった。あればかりは、事故だったとしか言いようがない。その上にマンションを建てようとしているなんて話、以前の自分達の力ならばあらゆる圧力を用いてでも阻止することが出来ただろうに。


――間違いなく、徳永建設は……地中に埋めてあった御神体を掘り起こし、その姿を見てしまったのだ。そして、呪いを受けた……!


 そこまでは、事故の範疇だったと言えなくもない。儀式場として長年使っていたあの土地が最適だったとはいえ、自分達があの場所に埋めなければ、あるいは今の今まできちんと土地を管理できていればこんなことにはならなかったのだから。それを悔やむ気持ちは、少なからずあるのである。

 だが、ただ嘆いてばかりいられる状況でもなかった。というのも、あの場所で見つかったはずの御神体がなくなっていたからである。濵田の能力をもってしてでも見つけることができなかった。アレ、の祟りを受けない人間が持ち去ったのは明らかである。

 そして、それは魔術師の誰かでしかあり得ない。その最有力候補が秋風であることも言うまでもないことで。


――秋風が御神体を持ち去って何をしようというのか、気が気でなかった。我々の中で最も力を持ち、カリスマ性を兼ね備えた奴のことだ……!


 嫌な予感は的中した。

 徳永建設の“事故”から約一年後――大型掲示板にて、惨劇の嵐が吹き荒れたからだ。




487:百物語をしたいななしさん@真夏のこっくりさん

知ってはいけない言葉、を知った奴は一定期間の後にみんな同じ死に方をするんだってさ

ウソだと思う奴は試してみる?


つ 【URL】


488:百物語をしたいななしさん@真夏のこっくりさん

ん?何このアドレス


489:百物語をしたいななしさん@真夏のこっくりさん

あれ?えぶりちゃんねるってホームページのアドレスとか貼れないはずじゃ


490:百物語をしたいななしさん@真夏のこっくりさん

何でこんなの貼ったんだよ!!!!!!!見ちまったじゃねえか!!!!!!!!!!!!




――なんてことだ……ああ、なんてことだ!!


 知ってはいけない言葉。そんな都市伝説がうっすらと囁かれるようになっていたことは知っていた。でもまさか、それが自分達がかつて祀っていた“神”の名前だなんてどうして想像がつくだろう?しかも、よりによってその名前があんな誰でも見ることができる大型掲示板で晒されるなんて。

 遠田や濵田の力をもってして、どうにか名前を見てしまった何人かを特定し、神の呪いが降り掛かった痕跡を排除することに成功した。神そのものを見なくても、足を強引に引き千切られた遺体なんてものが見つかればそれそのものが新たな噂を呼んでしまうことになる。

 そして、神の存在が知られて畏敬されるようになれば、それはせっかく封印した神の力を強めてしまう結果になりかねない。遺体の一部は樹海などの場所に捨てて見つからないように処分し、一部は爆発事故に見せかけて損壊し、さらに一部は地中に埋めて誤魔化した。だが、自分達の手が回らなかった事件が他の人間にリアルタイムで目撃され、ニュースとなってしまったのである。




●坂上さんは原稿中 @sakasakanoue

うわーホラーじゃん


××町のアパートで、両足首のない女性の死体発見

#××町不審死 news.yahoho.jp/ronnronn/565699



●新島ノリオ @wka5fgeesa

 返信先: @sakasakanoue

両足首ないってナニ!?!?!引きちぎられてるとかそんなんある?



●坂上さんは原稿中 @sakasakanoue

 返信先: @wka5fgeesa

ノリさんこんにちは。やー、どう見ても人間技ではありませんわ……。

切断されてたならわかるけど、力任せで無理やり引きちぎられたみたいになってたっていうからさあ



●新島ノリオ @wka5fgeesa

 返信先: @sakasakanoue

なにそれこわい。

ていうか今記事読んできたけど、コメント欄で変なこと言ってる人がいんね。

知ってはいけない言葉を知ってしまったから、みたいな。何なのか知ってる?




 しかも、最悪なことに“知ってはいけない言葉”の都市伝説とセットになって。

 何者かの情報操作が働いていることは明白だった。祟りを誘発して神を満足させるのみならず、それによって神の存在を世間に知らしめて力を増幅させようと目論んでいる何者かがいる。

 そしてそれは、秋風英以外にはあり得ない。


『秋風!何故……何故このようなことをする!?神を目覚めさせ、祟りによって罪もない人々を惨殺させ、お前は一体何をしようと言うのだ……!』


 なんとか秋風を探し出し、濱田は彼を問い詰めた。確たる証拠があるわけではない。ここでシラを切られたらと思っていたが、秋風はあっさりと自分の犯行だと認めて見せたのである。


『私が何をしようとしているか?決まっているではないですか。もう一度、ただしく神を祀り、清らかな神へと生まれ変わらせたい。それだけです』

『それならば何故、あのような形で祟りなど……!』

『貴方もわかってるくせに。今の神はもう、人間の足以外では満足して下さいませんよ。我々の力で供物を用意することなどほぼ不可能な状態です。ならば、神のご意思に任せて、自ら供物を選んで頂く他ありません。……ご安心ください。この状況は長くは続きませんよ。神が満足されれば、再び“知ってはいけない言葉”は封印されます。そこでもう一度、イチから儀式を始めてやり直すのです。今度は、私一人でね』


 多くの信者の手を借りたから駄目だったんですよ、と秋風は言った。


『欲望に塗れた人々の手など借りてはならなかった。そのせいで神の魂が穢れてしまったのだから。……私一人ならば問題ありません。何故なら、私は神の安寧以外にこの世界に望むことなど何もないのですから。私はこの世界で誰よりも、神の魂が安らかであれる世界を望んでいる。望むことができる。……神の像も、名前も、姿も見て私が無事であるのが何よりの証拠。私は既に、神に新たな司祭として認められているのですよ』


 彼は何一つ嘘を言っていないのだろう。そして、心からの善意で、神を清らかな存在に変え、安寧を与えようと画策しているのだろう。信者としてこれ以上なく彼がやっていることは正しいのかもしれない。だが。


――だからって!それまでに一体、どれほもどの人が死ぬことになると思っているのか……!


 自分にはわかる。長き飢えの時間、人々の欲望を浴びたことによって、神はまだ当分満足しないだろうことが。

 あと何十人?何百人?何千人?それは、まったく想像もつかないことである。そうして死ぬのは、自分達の身近な大切な人かもしれないというのに。


――どうすればいい!どうすれば、どうすればいいのか……!


 別の方法で神を満足させることができなければ、秋風を殺しても既に意味はないのかもしれない。濱田は一人、頭を抱える他なかったのである。

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