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<10・曖昧。>

 暫し、その場に沈黙が落ちた。

 千切村。チギリ様。足を引きちぎって殺すという悪霊。確かに、今回の事件と通じるものは多い。

 記事の最後の方には、小さく“チギリ村は今どうなった?”という注釈がついていた。




『霊能者によって封印が施された後、その少年の悪霊を封印したご神体を祀る神社ができたと言われている。

 悪霊の封印を保つため、現地には生き物の足を切り取って捧げるという習慣が残っていたと言われているが定かではない……』




 このへんが曖昧だよな、と千夜は少しばかり呆れてしまう。過去惨劇があったというのが本当だったとしよう。それで霊能者が、御神体に悪霊を封印したというのも事実であったとしよう。が、その後神社を建てて祀るというのは誰がしたのか。村人達はみんな逃げ出し、あるいは呪い殺された後であるはずだというのに。


「胡散臭いなあ」


 思わず感想を漏らすと、そういう雑誌の記事だからねえ、と憐が肩を竦めた。


「ただ、完全に的外れな話ではないと思うんだよね。話はかなり盛ってそうだけど、実際に伝わっていた部分も多いんじゃないかと思うんだ」

「というと?」

「この雑誌、明らかに男性向けじゃん?オカルトと称して、女体エロが出てきそうな話ばっかり紹介してる。でも、この記事の中では怪物を孕んだとしてるのは“少年”になってる。……この雑誌の方向性からして、話を盛るなら“薄幸の美女”とかにしそうな気がしない?それも、エロい話の尾ヒレつけた上で」


 それもそうかもしれない。こう言ってはなんだが、強姦されて身ごもったという設定で考えるなら、美少年よりも美女の方が雑誌の方向性としては需要がありそうではある。

 ということは、そのあたりの伝承には嘘がないのかもしれない。そんなオカルトな事件が、実際に起きたかどうかはまた別として。


「誰が神社作って祀ったの?とか。そのご神体がなんで東京にあんの?とかはだいぶ疑問っちゃ疑問だし?ただ……足を捧げるっていうのはかなり近いかも。生贄の足を持っていくことにより、相手を許す・恨みを晴らすという。だから、呪われた相手が助かる方法って、自分で足を切り落として差し出すことなのかもね。そんなのできっこないけど」


 この先輩は、と千夜は顔を引きつらせる。なんとまあ、のんびりした口調でとんでもないことを言い出すものである。大概間違ってないのが逆にきつい。


「山梨県某所ってだけじゃ、村の正確な住所はわかりませんよね……」


 うーん、と首を傾げる千夜。


「それに、先輩が仰る通り、なんでその呪いが東京で発生したのかは謎でしかないです。そもそも、そんなやばい悪霊を封印できるほどの霊能者って本当にいるのかどう、か……」


 そこまで言ったところで、はっとした。ひょっとして、ここでアレに話が繋がるのではなかろうか?




443:百物語をしたい>>395さん@真夏のこっくりさん

いや、マジで何か封印されてた系はあるかもしれない。

というのも、そこおっちゃんの両親が住み始めるよりも前に、何代か家族が住んでたみたいなんだけどさ

誰も彼も、短期間で引っ越してるっていういわくつきの土地だったんだよね

ひょっとしたらおっちゃんの両親にもなんかあったのかもしれないけど、おっちゃん自身が住んでたわけじゃないもんだからそのへんよくわからないみたいで

だから、何か事故物件だったとかそういうオチがあるかもしれないっていう

おっちゃんが知ってたのは“昔一般で売りに出される前は、なんかの宗教団体の施設があったらしい”ってことだけだったんだけど

マジでやばい神様呼びだしてたオチある?




「宗教団体……」


 まだ、恐らく、としか言いようがないが。

 徳永建設社長の両親が住んでいた土地に埋まっていたものが、チギリさまのご神体であったとして。その両親が住むずっと前に住んでいた宗教団体が、そのご神体を祀っていた――なんてことはあるのだろうか。

 宗教団体だからといって、本物の霊能者がいるとは限らない。だが、仮にそういう力を持つ人間が実際に存在したとして。その人間が、千切村で猛威を振るっていた悪霊をただ封印したというより――自分達が利用しやすいように“最適化した”形であったとしたらどうか。

 邪神と言われるものの中には、生贄を捧げ続けることで信者の願いを叶えてくれるタイプのものもいたはずである。

 千切村を訪れた宗教団体所属の霊能力者が、そのご神体を封印して東京の自分達の本社まで持ち去り、そこで定期的に生贄を捧げることによってその力を利用していたというのはどうだろうか?


「多分今、俺も千夜クンと同じこと考えてる」


 憐が雑誌をパラパラと捲りながら言った。


「徳永建設社長が、やばいものを掘り起こしちゃった土地。その土地に元々あった宗教団体が、さらにキナ臭くなってきたなーってかんじ。そいつらが、千切村からご神体持ち出してきて、自分達の土地で祀ってた可能性は大いにありそうだよね」

「は、はい。ただ、それなら普通ご神体ってその場に放置していきませんよね。なんで宗教団体は土地に埋めて残していっちゃったんだろう」

「うん、そこがミステリー。神様を暴走させちゃって宗教団体自体が壊滅したか……もしくは、呪いが発生することを見越してわざと土地に残していったか。ただ、そうなると今度はその土地に住んでた人達の被害が少ないことに疑問が残るかな。この神様が祟ると、人の足を千切って持って行くってのはもうわかってることでしょ?でも、少なくとも土地に住んでた人達全員は呪われてない。多分、足を千切られた人もいない。明らかに呪いのレベルが低すぎる。これは一体どういうことなんだろう……」


 まだ、自分達の推測が正しい保証はない。宗教団体が完全にクロだと決まったわけでもなければ、彼等がご神体のようなものを持ち出して祀っていたと決まっていたわけでもない。土地から掘りだされたのが、そのご神体のようなものだったのかどうかも。

 ただ、いずれにせよ確かなことは、自分達は一度徳永建設が作業中だったその土地を一度訪れてみた方がいいということである。出来れば千切り村があった場所も確認しておきたいが、そこは場所がわからない以上どうしようもない(そもそも、元凶であろう場所に自分達だけで行くのは危険だとも言える)。

 それからもう一つ。そこにかつて建っていたという宗教団体施設についても詳しく知る必要がありそうだ。地図帳で、その名前が載っていたりしないだろうか。できれば、その後に住んでいたという家族がどうなったかについてもある程度情報が欲しいところである。


「大体調べる方向は定まりましたけど」


 少しずつ不安になってきた。雛子のためにも、事件に首を突っ込むと決めたのは千夜である。だが、調べれば調べるほどますます自分の手には負えないという感が強くなってくるのだ。




『そのためのインターネットと図書館でしょ。……それと、本格的にやばいと思ったら、その時は学校と部活休んでも調査に入った方がいいとは言っておく。本来ならあんた達にはひっこんでなさいと言いたいところだけど……見たところ、そんなこと言ってられるようなレベルの怪異じゃないみたいだから』




――典子さんが、ここまで言うって本当にアレだろ……。


 本来、本職の彼女からすれば素人に関わらせたい事件ではなかったはずである。それでも千夜と憐に実質調査依頼をするようなことを言ったのは、文字通り“猫の手も借りないとやばい”と判断したということではないだろうか。

 調査をしないで安全圏に避難しても、最終的な脅威から逃げ切ることができない。なら、少しでも早く解決の糸口を見つけるため行動した方がいい、と。


「俺達はその神様とやらを、実質どうにかすることはできないわけですよね。だから“知ってはいけない言葉”をバラまいた奴を叩くしかないわけですけど」

「うん」

「そのバラ撒いた奴は、宗教団体の人間にいるんでしょうか?そうじゃない場合、完全に手がかりがゼロってことになっちゃいますが……」


 もし、宗教団体が壊滅していたとしたらそれこそお手上げである。

 それに、いくらウィンターカップが終わって部活動が少し落ち着いた時期だからといって、学校も部活も完全になくなったわけではない。次のインターハイに向けて今から全力で準備しなければいけない、というのが本当のところである。そんな場合じゃないと言われるかもしれないが、学生である以上テストからも逃れられない。意味があるかどうかもわからない調査に、あまり長く時間をかけてもいられないのが実情だった。

 特に、来年受験生の憐は余計そうだろう。それだけに、雛子と苺子とは本来無関係の彼がこの調査に積極的であるのが意外ではあるのだが。


「確かにそうだけど、関係あるかもしれないなら何もしないテはないでしょ。全部当たってみて、それで徒労だったらその時はその時だよ」


 ぱたん、と本を閉じて言う憐。


「あんまりそう見えないかもしれないけど、俺、かなり危機感感じてるからさ。自分の命も危ないと思ってるからこそ、マジになって調べなきゃいけないなと思ってるわけ。典子サンが言ってたのもあるけど、ほとんど俺の直感のようなものっていうか」

「直感、ですか」

「うん。……“知ってはいけない言葉”を書きこんだ魔術師が、積極的に人々に呪いをかける方向に動いたらそれだけで世界が終わるよ。それこそ、日本語を知らない人間なら見ても安全なんて保障さえないんだから」


 いつになく真剣な彼の声に、千夜は冷や汗を掻いたのだった。世界を救う。そんな規模の大きなことまで、考えていたわけではなかったけれど。


――……典子さんは、どうするつもりなんだろう。


 とりあえず、図書館の調べものに一区切りつけたら、もう一度彼女に連絡してみようかと考える。


――神様本体の被害を弱める、なんて。そんなことできるのかな。

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