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第8話 広哉の休日2

「きったねぇ!なにしてんだよ!」


怒ってはいるが、半分くらい笑ったような声で泰正は叫んだ。


「お、お客様、どうかなさいましたか!?」

「あぁ、いや、大丈夫です、自分らで対処します。すいません、お騒がせして」


心配そうに駆け寄ってきた店員に、泰正がカバンからスポーツタオルを取り出しながら謝っていた。


俺も、スポーツタオルで顔を拭う泰正に平謝りする。


「ほんと申し訳ない。いや、そんなこと言うなんて、びっくりしちゃって」

「いいよいいよ、そんな気にしてないし、汗も流れたかな、へへっ」


そう冗談めかして言う泰正を見ると、余計に申し訳なくなってしまう俺は、泰正に提案した。


「じゃあ今日の会計は俺に出させてくれ、お詫びってことで…」

「いいのいいの、俺も変なこと言ったしさ、俺の分は俺が出す、もうこの件はおしまい!さ、注文しようぜ」


俺は心底、泰正の人柄の良さというか、おおらかさに感謝するのであった。


気を取り直し、俺たちが改めてメニューに向かい合った頃、柚希たちのグループも席に案内されたようだった。


俺たちの席のちょうど脇の通路を通ったが、目が合うとか、そんなことはなかった。

無事に(?)注文を終えた俺たちは、雑談の時間を共にしていた。


「今日マジで暑くてさ、試合見てた一年全員ぶっ倒れそうだったんだぜ」

「大変そうだね…写真部は気が楽でいいよ~」

「羨ましいわぁ」


愚痴ったり、笑ったり。本当に何気ないが、本当に楽しい時間だった。


やがて、店員が2人分の食事を運んできた。


泰正は腹ペコだったようで、運ばれてくるなり、すぐに食べ始めた。


そこからはまた、食べながら話し、ゆったりとした時間が流れた。


「俺飲み物とってくる」

「あ、俺のもお願いしていい?ぶどうジュース」

「おっけー」


自分の飲み物を取りに行くついでに、泰正のものも淹れてあげることにした俺は2つのコップを持って席を立った。


ドリンクバーに到着し、自分は何を飲もうか思案していると、左側から視線を感じたので、ちらりと目をやれば、そこには柚希が立っていて、何やら楽しそうな表情を浮かべている。


「あ、どうも…」

「うん、やっほー」


俺が遠慮がちに挨拶をすると、その喜色をより一層濃くして返事をしてくれた。


はたから見れば、片手にぶどうジュースの入ったコップ、もう片方の手には空のコップを持った男と、美少女がドリンクバーの前で向き合っているなど謎すぎる場面である。

俺は何も持っていないわけではないのに、手持無沙汰に思えてくる。


「何飲むの?」

柚希にそう尋ねられ、俺は我に返った。


「あ、えーっとアイスティーにしようかな」

「じゃ私はオレンジにしよっと」

そう言うと彼女はかごからコップを手に取ってオレンジジュースを注ぎ始めた。


俺もその隣でアイスティーを注ぐ。

「今日はお友達と一緒なんだね」

「うん。あっ…もしかして俺がさっき吹いたところ見てた?」


俺は不安になってとっさに尋ねた。

「ん?いやぁ見てないよ」


(絶対見てるうううううう!)

見られたくない場面を見られたくない人に見られてしまった俺は、赤面しつつもお願いした。


「頼むから誰にも言わないで…特に指田先生とか」

「わかったわかった、言わないよー」


少しだけ笑いながら軽くそう言う柚希に半信半疑の目を向けながらも、俺は質問した。


「古賀さんも、友達と来てるの?」

「うん。中学の頃の友達と。女子会ってやつだから、南條くんたちは参加しちゃだめだぞっ」

「わ、わかってるよ。そもそもお邪魔するつもりもないし…」

「ふふっ。じゃ、また学校でね!」


そう言うと柚希は、体を翻して席に戻っていく。


ワンピースがひらりと揺れた。


去り際に彼女が見せた満面の笑みに見とれ、俺はしばらくその場に立ち尽くしてしまった。


「遅かったじゃねぇか」

「ちょっと何飲むか迷っちゃって」


俺たちの席からはドリンクバーは見えない。だから、俺と古賀さんが話していたことを泰正は知らない。はずだ。


「てっきりさっき並んでた子たちにナンパしに行ったかと思ったよ」

「ゴッホゴホゴホ」

「おいおい大丈夫かよ」


むせた。盛大にむせた。


今日は俺にとって厄日なのかもしれない…


「んじゃ、そろそろ帰るとしますか。帰ってシャワー浴びたい」

「そうだな、帰るか」


そろそろ話のネタも尽きてきたなというところで、泰正が提案してきて、俺も帰ることにした。


会計を済ませて外に出ると、また酷暑が襲ってくる。


「あぢいぃよぉ」


隣で泰正がうめき声をあげている。


「死ぬな、生きろ」


俺もよくわからないことを口走ってしまい、ゾンビ映画のワンシーンみたいになった。


「マジでファミレスにいた子可愛かったなぁ」

「まだ言ってんのかよ…」

「いやマジで可愛かった。あー、運よく同じ学校だったりしねぇかなぁ」


(いや1人は同じ学校なんですぅぅぅぅぅ!!!)


泰正としては欲望を口にしただけだったが、俺は内心ハラハラしていた。


「ははは…そういえば、明日の体育はサッカーとか言ってたよなぁ」

「あ、そうだったな…俺球技は野球しかできないんだよな…」


無理やりと言っていい話のそらし方だったが、俺は何とかその場をしのいだ。


「そういや最近、勉強教えてんの?あの、保健室登校の子に」


おもむろに尋ねてきた泰正に

「うん、まぁ、ぼちぼち」

と答える。

俺は自信をもって答えることができなかった。


「ふーんそっか、ま、がんばれよ~」

「うん」


俺の複雑な胸の内を雰囲気から察知してくれたのか、はたまたそこまで興味がそそられなかったのか、泰正はそれ以上聞いてこなかった。


「じゃ、俺はこれで」

「ん、じゃあな」


俺たちはY字路に差し掛かったところで別れた。


今日のことは本当に驚いた。

まさか休日に会うなんて思わなかったし、私服姿も新鮮だった。

楽しそうな柚希の顔を想起し、俺は柚希から活力をもらった気がした。

その活力で、俺は家までの足取りを軽くさせた。

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