第33話 名前呼び…尊いです…
ひとしきり日菜と話したのち、俺は予定通り夕焼けの写真を撮り、満足したところで帰宅した。
日菜は、暗くなる前に家に着かなくてはいけないとのことで、夕日を見ることなく海辺を後にした。
去り際彼女は、俺の恋路を応援するとともに、明日にでも古賀宅を訪ねてみてはどうか、という提案をしていった。
前向きに検討します…
家に帰った後は、いつものごとく撮った写真をチェックし、気に入ったものをスマホからプリンターへ転送して数枚プリントアウトする。
そのうち何枚か明日柚希にあげようかな、なんてことを考えると、胸が高鳴るのを感じた。
胸が高鳴ると同時に、どこかで心がざわざわと波を立てていることに気が付いた。
退院した翌日に家に押しかけられて、迷惑に感じないだろうか。
日菜は、「そんなことはないと思う」と言ってくれていたが、柚希がどういう反応を見せるかは柚希に会ってみないと分からない。
それは楽しみでもあるのだが、やっぱり怖さの方が大きい。
印刷した数枚の写真を1枚ずつ手に取りながら思案するも、踏ん切りはつかないし、何が正解かもわからない。
ピコンッ
といったところで、スマホの通知音が鳴る。
誰かしらからメッセージでも届いたのかなと確認してみれば、なんと理子からだった。
見れば、「古賀家にお見舞いに行くのであれば、手土産を持っていくべし。私だったら洋菓子がいい。できればマドレーヌ」の文字。正直目が点になり、あっけにとられてしまったが、なんとなく俺は背中を押されているのだとくみ取れた。
きっと理子は、「どうせ広哉のことなんだから、悩んでるんだろうなぁ」とか考えて連絡をよこしたのだろう。誰かに気に掛けられているという事実だけでも、俺は十分ありがたく思う。
ひとまず、明日行ってもいいか聞いてみる。
それから始めよう。
『古賀さん、今日退院したんだよね。こういう時っておめでとうって言うのかな?でもなんか違うような気がする…ひとまず、今日までお疲れ様でした。突然で申し訳ないんだけど、明日、お見舞いというか様子を見に行かせてもらってもいい?』
メッセージを打つ時も心臓はうるさいほどに拍動していたし、何度も消して、書き直して、やっと送信したのだった。
ピコンッ
送信してから5分ほどたって、通知が届く。
相手はもちろん柚希だった。
俺は手早くアプリを開いて送られてきたメッセージの内容を確認する。
(すぐ既読つけるの気持ち悪いかな…いやでもいいか、気になるし)
一瞬ためらったが、その時すでに既読をつけてしまっていた。
柚希は、
『連絡ありがとう!いや~大変だったよ、病院生活。とりあえず日常が戻ってきて一安心かな』
というメッセージに加えて、
『広哉君のお宅訪問なら大歓迎です!待ってるよ~』
という文言も添えていた。
(いやいやいやいや広哉君!?!?!?なんですかその呼び方!!!いや嬉しいけどさ…その、いきなり名前呼び!?うわマジか…なんか、心に来るものがあるな…)
これが恋か、なんて勝手に納得しつつ、俺は赤面。
からのベッドにダイブ。
恥ずかしさを紛らわすための応急処置である。
それにしても、明日の来訪を快諾してくれた。そのことには感謝しかないし、俺も相応の準備をしなくてはならない。
よし!と意気込んで、俺はクローゼットを開けた。




