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第30話 さよなら、テスト。ようこそ、自由。

翌日は、理子と日菜がお見舞いに行ったそうだ。

理子によれば、日菜と天音さんが病室にいるところに参入する形となり、邪魔したようで申し訳なかったが、柚希本人は嬉しそうにしていたという。


いずれにしても、目を覚ましてからの回復ぶりは良好そうで一安心だ。


だが、その次の日の放課後、その安堵をもかき消すようなお知らせが舞い込んでくる…


「期末2週間前切ってるからなー、計画的に勉強するようになー」

「うぐっ…」

そう、足音を忍ばせて近づいてきたのは期末試験。普段は2週間前からちょっとずつ勉強を進めていくスタイルだったのに、今回は気が付けば10日前になってしまった。

(まずい…古賀さんに気を取られすぎて勉強してない…)

普段よりちょっと頑張れば、いつも通りの結果を得られるだろう。そして何より、柚希の存在を、期末試験の成績が悪いことの理由や、免罪符にしてはならないし、したくない。


勉強もしっかりやろう、そう決意した俺だった。


その日の夜、俺は久しぶりに柚希に連絡を取ることにした。

直接会って話すことは最近再開したが、スマホで連絡を取るのは水族館に行った頃以来かもしれない。


『こんばんは、久しぶりにスマホから連絡してみました。実は期末テストが迫ってて…しばらくお見舞いには行けなそう…テスト終わったらまた様子見に行きます!』

変な文章になっていないか、送る前に何度か確認してしまったが、きっと大丈夫だろう。そう信じて、俺は送信ボタンを押した。


それから、俺は早速テスト対策に取り組もうと机に向かった。


勉強する際のマイルールとして、スマホを手の届く位置や目に入る位置に置かない、というものを設定している俺は、ものすごく勉強に集中できた…なんてことはなく。


勉強机のちょうど背後にあるベッドにスマホをほっぽり出していたのだが、柚希から返信がないか気になって仕方がなく、何度も椅子から立って画面をチェックしてしまう。そんなことをしている場合ではないというのに…


今か今かと返信を待っていると、俺のスマホがピコンと鳴る。


見れば案の定柚希だった。

『連絡ありがと~、もうテストの時期か…頑張ってね!病院で待ってます』

そしてウサギが両腕に力こぶを作っているスタンプも添えられていた。

頑張れ、という意味なのだろう。


「…っすーーー…よっしゃやるか~」

そうつぶやき、俺は机に向きなおった。


我ながら、単純な男だ。

テスト勉強に本腰を入れ始めたのはテストの10日前。

これはやはり不安なもの。そしてその不安というのが、人間に本来の力より大きなものを出させるようで、俺は普段よりも集中して、質の高い勉強ができていた。

もしかすると、柚希からの激励メッセージが効いているのかもしれない。

あいにく、彼女からのメッセージは1度きりだったが。


そして迎えたテスト期間。

4日間にわたって実施されるそれは、学生にとっては天国へと続く地獄のようなものだ。

特に1学期期末考査は、乗り越えてしまえばフリーダムの夏休みがやってくる。

バイトや部活に精を出す者、友人や恋人と一生ものの思い出を作る者、はたまた夏季補習にその身と心と時間を拘束され、自由とはかけ離れた夏を過ごす者…

各人に、それぞれ違った夏が訪れる。


その夏を無事に迎え、そして補習三昧の最悪な夏を避けるためにも、この峠は乗り越えなければならないのだ!


と、そのようにテストが始まる前はつい意気込んでしまうものだが、いざ始まってしまえばあっという間で、夏休みのことなど考えられなくなり、目の前の問題に熱中してしまうのだ。


現代文、数学、英語、生物基礎、地理総合…その他さまざまな科目を、ゲームの中でのモンスターのように”討伐”していく。

そんなゲーム性のようなものがあるため、テストという仕組み自体は嫌いではない。

(勉強するのは面倒くさいし、好きではないけどな…)


そんなこんなで、たまに登場する難しい問題にてこずることはあれど、俺は期末テストを乗り越えたのだ…


キーンコーンカーンコーン


「はいやめ~、筆記用具置いて解答やめてー。じゃ、後ろの人回収してきてー」

テスト最終日の最終科目。

その試験時間の終わりを告げるチャイムが教室内に鳴り響くと、同じ空間にいる生徒、そして試験監督の教員までもが、解放感と一気に気だるくなる雰囲気を共有する。


ペラペラと、解答用紙の枚数を数える音が教室内に響く。

その音が一つ一つ刻まれるたび、俺は自由が足音を立ててこちらに近づいてくるように感じた。


「はい、じゃあ確認が取れました。帰りのホームルームまでは教室待機で。お疲れ様でしたー」

そう言い残し、先生が教室を去る。


そのタイミングで、教室内の空気は完全に緩み、歓喜やら絶望やらの感情の泡が、あちらこちらではじけ、それが次第により大きなものとなって教室内に広がる。


この瞬間も、俺は嫌いじゃない。


「いやあ~、お疲れ~」

「お~、泰正。どう?今回の出来は」

「ん-、前回より下がったかもな~…」

「まじかよ、まぁ切り替えていこう、もう夏休みくるから」

「そうだよ夏休みだよ!花火大会に、海にプール…やりたいこといっぱいあるんだよ~」

「毎年、時間が足りない~とか言ってるもんな」

「ほんとに足りない、マジで」

「お、おう、そうか」

疲れた様子を見せた泰正だったが、俺が夏の話を持ち出すとすぐに表情を明るくして、まだ始まってもいないのに夏の時間が足りないと嘆いている。


その後も、具体的に夏にやりたいことであったり、今回のテストの出来を話していると、俺に来客があった。


「南條君、ちょっといいかい?写真部のことで話しておきたいんだが…」

「あ、部長。わかりました。荷物まとめたら部室行きます」

「ありがとう、助かるよ」

俺を呼び出したのは、写真部の部長。その名は真野直人。


背が高く、髪が男子生徒にしては長めの、ちょっとミステリアスな雰囲気をまとった2年の先輩だ。

初めはその雰囲気に警戒心を抱いたが、今となってはマイペースなだけで、めちゃくちゃやさしい先輩、といった印象だ。


「じゃ、行ってくるわ。遊びの約束とか、また話そうぜ」

「おう、行ってらっしゃい。てか、あの先輩なんか怖いんだよなぁ」

「そう?話してみれば普通だよ。ちょっとマイペースなところあるけど…」


泰正にそう答え、俺は教室を出た。


写真部室での打ち合わせなんて、かなり久しぶりだ。おそらく夏の活動についての話し合いだろうな。


そんなことを思い描きつつ、俺は部室へ急いだ。


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