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第3話 会いに…来たんでしょ?

翌朝、俺はいつものように自宅の最寄駅の改札を通り、学校方面へ向かう電車のホームに立っていた。


どうやら電車が遅延しているらしく、なかなか来ないのでスマホを見ていると、見慣れた顔がこちらに近づいてきた。


「よっ」

「おはよう、泰正。珍しいな、駅で会うなんて」

「そうだな、俺普段は広哉の一本後のやつ乗ってるんだけど」

「あー、今日は電車遅れてるらしいから、泰正が俺に追いついちゃった感じか」

「そうなるな」


最寄り駅が同じとは言え、朝は学校でしか会うことのなかった泰正と一緒に登校することに新鮮さを覚えつつ、俺たちはやってきた電車に乗り込んだ。


電車の中で、泰正とは何気ない雑談をしていた。


「でもあのゲーム高いんだよなぁ」

「それな、あ、そう言えばさ」

そう言って泰正は話題を転換させた。

「古賀さんの勉強会はいつやんのよ?」

「あー、決めてないな、まぁ、そのうちやるよ」


お茶を濁す俺に、泰正は眉を(ひそ)めた。


「お前さぁ、もうちょっと女の子を大切にしろよぉ、先延ばしにしてたら可哀想とか思わないわけぇ?」

「いや、別に勉強会なんか楽しみにしてないだろ…できれば勉強したくないだろうし」

「いいんだよ、とにかく早いうちにやれよ、今週中とかな」

「…へいへい」

ウジウジと言う俺に、泰正はこれまたどの立場からなのかわからないアドバイスをしてきた。


そのあとはまた雑談をし、15分ほどで学校の最寄り駅に着いた。

駅には他にも多くの生徒がいて、改札へ向かう列がなかなか進まなかった。


「今日は混んでるな、遅延の影響もあるだろうけど」

「だよな、遅刻しないといいけど」

「流石に間に合うだろ」

「うーん…」


俺は知っていた。こういう発言は、漫画やアニメの世界では、大きなフラグになることを。


どうやら本当に泰正の発言はフラグとなってしまい、そのフラグは見事に回収されたようだった。


「おい、全然進まないぞ…」

「これ…やばくない?」


全く進まない列は、改札口に続いている。はずだ。先頭が見えないので、なんとも言えない。


俺たちが困惑していると、そこに駅員の大きな声が響いた。


「電車の遅延と改札機の故障により、お客様にはご迷惑をおかけしております!申し訳ございません!」

「泣き面に蜂じゃねぇか!どうすんだよ広哉!」

「どうするって…俺たちにできることは何もないよ、このまま少しずつ列が進むのを待つくらいしかできないよ」


この駅には改札機が4つしかなく、駅に入場する改札が2つ、出場する改札は2つとなっている。駅員によれば、出場する改札の1つが不具合を起こしたので、入場する改札の設定を変え、出場用にして対応しているとのことだった。


ただ、それでも処理能力を利用客(この時間帯はほとんどが俺たちの学校の生徒だが)の多さが上回り、改札口で詰まってしまっているのだ。


10分ほどして、俺たちはなんとか改札を抜けた。


「いやー、学校行く前から疲れたぜ」

「わかるー、こんな混雑初めてだよ」

「てか時間やばい!走るぞ!」

「え!?あ、ああ!」


ふと時計を見れば、始業まであと10分だった。駅から学校までは、歩いて15分はかかるので、走らなければならない。現役野球部の泰正はいいが、俺は写真部の端くれ。そして最近は運動不足を自分でも感じている。当然泰正のスピードに追いつけるはずもなく…


「ま、待って…死ぬ…」

「走れー!広哉!俺は先行くぞー!」

そう言って泰正は走っていってしまった。


その後、なんとか間に合い、俺は教室に汗だくで入った。


「お、来たか広哉、ギリギリセーフだな」

「あ、あぁ。マジで1週間分は走ったわ」

水筒から水を(あお)りつつ、俺は軽口を叩くのであった。


あわや遅刻というピンチを乗り越えた俺は、午前の授業を受け、昼休みを迎えていた。


「あー、腹減ったー飯食べようぜ」


俺の机にぐでーっと突っ伏した泰正がそう話しかけてきた。


「そうだね、食べよう」

かくして俺たちは昼食にありつけるのであった。


昼食をとった後、俺はいつものようにスマホを見たり、泰正と雑談をしたりして時間を潰していると、ふと泰正がこんなことを言ってきた。


「あそうだ。古賀さんはいいの?」

「ん?なんで?」


特に彼女と会う約束をしたわけでも、ましてや勉強を教える約束をしたわけでもない。だからなぜ泰正がそんなことを言ってくるのか俺にはわからなかった。


「いやなんでって、会いにいってやれよ〜、退屈してるかもしれんだろ〜」

「は、はぁ!?なんで俺が…」


余計に泰正の真意がわからず、困惑していると、


「いいから行ってこいって」


と、背中を押されてしまった。ニシシ、という効果音が相応しいであろうその笑顔に押され、俺は教室を出た。


(泰正のやつ、ほんと見切り発車というか、勢い任せなところあるよな…)


俺は保健室へと続く廊下を歩きながら、そんなことを考えていた。

(指田先生には、昨日のお礼言いに来たってことにしよう)


「失礼しまーす」

保健室の前に着き、俺はノックをしてからそう声をかけ、そっと扉を開けた。

やはり鼻を突く消毒液の強烈な匂いに、俺は面食らった。


「お?噂をすれば…」

「ん?噂?」

「いやぁ、なんでもない!さ、中へ入りたまえよ」


非常に気になる言葉を耳にしたが、ひとまずスルーし、俺は保健室の中へ歩みを進めた。


「さて、今日はどうした?広哉」


ソファに俺が腰掛けるなり、理子はそう尋ねてきた。

柚希も怪訝そうに俺の方を見ているので、俺は早めに用を済ませようと決意し、少し重い口を開いた。


「あ、えーっと、昨日のお礼に…」

「あぁ!勉強教えにきてくれたんだな!いやぁ、嬉しいよ、誘った2日後に来てくれるなんてさ!」

「い、いや、違うんですけど…」


見当違いに話を進めていく理子に、俺は当惑してしまった。


「さあさあ、早速始めて!何からやろうか?数学?英語?あ、保健体育は実技以外にしなさいよぉ」

「な、何言ってるんですか理子ちゃん先生!」


柚希も困惑した様子でツッコんでいた。その様子を見兼ねた俺は、たまらず、


「今日はお礼に来たんですよ、おとといの。手当てしてくれてありがとうございました。はい、おしまい!」


と半ば絶叫と言ってもいいほどに言い放った。


すると、なぜか理子は残念そうにうなだれながら言った。


「えぇー…なんでよぉ、私の前で青春してさ、酒のつまみにさせてくれよぉ…」

「職務中に飲んじゃまずいでしょ…」


ほんとに、心底呆れる養護教諭である。


「残念だなぁ、でも、お礼だけじゃないよね?」

「えっ…」


不意を突かれ、俺は動揺した。


「会いに…来たんでしょ?」

理子にそう言われ、俺は自分でもわかるほど赤面した。


「なっ…ち、違います!」

そう叫び、俺は保健室から走り去った。


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