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第20話 私

広哉から、日菜と話したことを聞いた私は、自分でもよくわかるほどには動揺していた。

動揺、という一言では表せないほど、数多の感情たちが複雑に絡んで、その時の私の胸の中に、濃くて、どこか粘り気のある霧を作り出していた。


中学の1年の秋頃。本当に人見知りで、クラスで分かりやすく孤立していた日菜に、美和が話しかけて、私たちは知り合った。

そこからの毎日は本当に楽しいものだった。


日菜の人見知りを解消させるという名目で二人で出かけたり、2年になって美和やせつなと違うクラスになっても、日菜は同じクラスで泣きそうになりながら喜んだり。


今思えば、あの時間は輝いていたなと思う。

私自身が輝いてるなんて言えるほど自分に自信はないけれど、日菜と過ごした時間は、とてもまぶしくて、いつまでも私の宝物だ。


美和やせつなと過ごした時間ももちろん楽しかったし、大切だけど、日菜は私にとって妹のような存在で、「人見知りで頼りない日菜の面倒を私が見てあげるんだ!私がいてあげなきゃ!」なんて、今となってはおこがましいと思えるようなことを考えていたんだと思う。


それでも、やっぱり依存しているところはあったのではないか。

なんてことも考える。


日菜に人見知りを克服してほしい、と思うと同時に、いつまでもこの瞬間が続いてほしいなんて叶いもしない、欲張りなことを願っていたのかもしれない。きっとそうだ。


心底自分が嫌になる。


嫉妬?

過去への気持ち悪いほどの執着?


きっとどちらも今の私にはある。

でも、それを認めようとしない。かたくなに。


人は変わっていく。


それはまぁ、わかる。避けられないことだし、受け入れていかないといけないもの。

でも寂しい。


今はいつまでも続かないし、変化そのものが本人にとってはよいことなのかもしれない。

それでも、私は日菜に離れてほしくないと願っている。


私が学校に行けていたら。

日菜と高校生活を送れていたら。


そんなことを考えると、保健室登校をしている自分への憎悪が押し寄せてくる。


いっそのこと日菜と出会わなければよかった?


それとも。


──私なんて生まれてこなければ、こんなことにもならなかった。こんな思いもしないで済んだ──


今までも、普通でない自分に落ち込み、自分のことが嫌いになって何回も泣いてきた。

でも、生まれてこなければ、なんてことを考えたのは初めてのこと。

初めてのことなのに。


なぜか、納得して、受け入れてしまっている自分がいる。

そして、心がすごく軽くなった実感を受ける。


そうか、そうだったんだ。


やっと答えが見つかった気がして。

楽になった気がして。


私はベランダの柵を乗り越えた。


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