第9話 柚希の休日2
私はオレンジジュースの入ったコップを片手に席へと戻った。
「おかえり~」
「なんかうれしそうな顔してない?」
せつなにそう言われ、ハッとする。
「そうかな、何もなかったけど」
「なんかあった人が言うセリフだよそれ」
「相変わらず柚希は嘘つくの苦手だよね~」
2人に揃って指摘されてしまい、私は肩をガクッと落とした。
「2人とも容赦ない…ただ学校の人に会って、ちょっと話しただけだよ」
私はこれ以上ごまかしても逃げられないと判断し、仕方なく事実を吐露した。しかし、嘘はついていない。一応。
「ふーん、そうなんだぁ」
「男でしょ」
「うぐっ」
せつなは鋭い。中学の頃からずっとそうだ。そして何より、せつなの鋭さにスイッチが入って追及を始めれば、本人の口から真実を言うまで絶対に逃がさない。それが三野せつなという女なのだ。
「ん、まぁ…そうだけど、別に恋愛感情とかはないからね!変な妄想膨らませたりしないでよ」
「ははーん、いいじゃないのいいじゃないの、青春してくれて結構ですよ」
そう言うせつなの、身長が高いのと今日の服装が大人びているのもあって、アラサーのOLのように見えてきた。
「何おばさん臭いこと言ってんの、あんたも華の女子高生でしょうが」
美和にそうツッコまれ、せつなはギロッと美和のほうを向いたと思うと、
「私はあなた方と違ってモテてないんですよ、ええ!文句あります!?」
と言って突っ伏してしまった。
そして、嘘泣きと思われるが涙声で、
「私なんかね、背が高いだけの女ですよ。背高いからなんかスポーツやってるの?って聞かれますけれどもね、ただのクイズ研究部ですよ。確かにそんな女がモテないのはわかりますけれどもね、私だって青春したいですよ!イケメンに言い寄られたいですよ!」
ともごもご言っている。私のことはともかくとして…確かに美和は可愛いし、性格もいいから、そりゃあモテているだろう。でも、せつなだって私の中では可愛い部類だし、話してみると面白い人だなと感じる。だから、まったくモテないということもないのではないかと思うのだが…
「元気出しなよ、こうやって女子会やって3年間終えるのも1つの青春の形だと思うよ、私は」
「ちょっと美和、モテないってことも否定してあげなよ…」
「うえーん」
美和の言葉はせつなには効いてしまったようだ。せつなが嘘泣きではなく本当に泣き出しそうだったので、私たちは宥め始めるのであった。
10分ほど宥めれば、やっとせつなも落ち着いて、普通の会話ができる状態に戻っていた。
「よし、だいぶ話し込んだし、外も涼しくなってきたっぽいし、帰りますか」
外に目をやれば、もう夕暮れ時だった。
入店した時よりもかなり空いた店内で、私たちは帰る支度を始めた。
店の外に出ると、日中よりもだいぶ涼しくなっていた。
「じゃーねー」
「また集まろうね」
「うん、またね」
私は駅の改札まで2人を見送って帰路につく。
2人は電車で一駅行ったところに住んでいて、私は駅の向こう、海の近くの家に住んでいる。
帰り路を歩きながら、今日のことを振り返る。
いっぱい美和とせつなと話せてうれしかった。そして南條君と会ってびっくりした。
すごく驚いたけど、でも…ちょっと、うれしかったかな。
私は鼓動が高鳴るのを感じて、急に走り出したくなった。
そして私は足を前に出すスピードを上げて、家までの道を急いだ。




