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俺がクロの毛並みを堪能している間、父さん達の方は進展があったらしい。
魔物だ何だと騒いでいた兄さんが、今度は顔面蒼白でクロに土下座をかましている。
「……………兄さん?」
「申し訳ありません! クロ様!
どうかオレ、いえ私の命だけでお許し下さいっ」
その後ろでは、父さんが爽やかな笑顔で親指を立てていた。
いったい何と言って説得したんだろう。
「クロ、兄さんがブラシを買って来てくれたんだ。
今日はそれでブラッシングしような」
「む。安物ではなかろうな」
「まさか。こんな田舎じゃ買えない代物だよ。
兄さんが王都で見つけてくれたんだ」
「…そうか。気に入ったら許してやろう。
だが、普段のブラシの方が良かった場合は、新しい物を買うように」
「だってさ、兄さん。もう頭上げなよ」
気に入らなかったら許さないんじゃないんだ。
───ハッ。これが俗に言うツンデレ………!!
いや違うか。デレてはないな。うん。
どちらかと言うと、映画では優しくなるジャイ◯ン現象に近い気がする。
「ありがとうございますっ! クロ様!」
「うむ」
「………なあ、そのクロ様ってやめない?」
俺の提案は即座に却下された。
父さん、兄さん、クロの全員からだ。
なんか恥ずかしくね?
見た目だけは、ちょーラブリーな子ライオン擬きに大人が様付けって。
ペットに「でちゅね~」的な、赤ちゃん言葉をつかうタイプだよ。もしくは、下僕タイプか。
俺、嫌だよ。ご近所さんから生暖かい目で見られるの。
「それで用事は終わったのか?」
「「「あ………」」」
「いや~、クロ様直々に案内して頂けるなんて、光栄です」
「終わらんとカリナのメシが食えんからな」
「あ、そういう。ハハハ」
驚くことに、父さんの記憶は正しかった。
本来は、小さな洞窟内に祠があるらしい。あくまで人間の感覚的にはだけど。
クロ曰く、大昔に村の先祖達が山神様を祀る祭壇を作ったらしい。
ちなみに、先祖達が山神様と呼んでいたのが、クロの先々代だとか。
定期的に村人が供え物をしていたが、徐々に減っていき、やがて祭壇を壊して祠に建て替えた。
まあ、管理の楽さとか、頻度とかの都合があったんだろうな。
祭壇を気に入った先々代は、異空間を作り、祠と洞窟を拡げたんだそうだ。
今回は、クロが俺に気付いて異空間に招き入れたらしい。
クロったら、そんな高度な技術を使える子だったのか。
知らなかった。
「着いたぞ。此処がお前達の言う、祠だろ」
「そうです!」
お宝的な物もアイテムむ落ちてない。
キョロキョロと見回してみるが、それらしい物はない。
あるのは、祠だけだ。
「父さん、何もなさそうだけど?」
「そんなはずは………」
周りはゴツゴツした岩だけで、何か隠せそうな場所なんて1つしかない。
「祠を開けたいのか?
構わんぞ」
「え、まじで?」
俺が祠をガン見していたからか、クロが気を利かせてくれた。
罰当たらないかな。
恐る恐る手を伸ばして開けると、中は空っぽだった。
「何もない。御身体的なやつもない」
「当たり前であろう。我は生きてるからな」
「ええー」
でも作った時は、クロの先々代だったわけだろ?
祀ってるのは先々代のことなんじゃ。
「むっ、あるではないか!
誰だ、こんな物を入れたのはっ」
「うそ、さっきは何もなかっ…………手紙?」
「手紙だな」
クロが口に咥えて取り出したのは、黄ばんでボロボロの手紙だった。
父さんが言う御告げってコレ?
いや、でも人様の手紙なんて取って良いのか?
「たぶんそれじゃないから、戻してくれ」
「そうなのか? ハルトが言うならそうしよう」
そのまま戻そうとする俺達に、父さんが待ったをかけた。
「ちょっと待ったー!」
「うわ、なに」
「それ以外に、それらしき物がないのであれば、一度調べるべきだろう」
「人の手紙を?」
「う、や、しかしだな。御告げが」
倫理的に罪悪感を抱いたのか、父さんの言葉は、だんだんと勢いを失くしていく。
だと言うのに、このまま押し通せそうな雰囲気から一変、事態は急展開を迎える。
横から手紙をちらちら見ていた兄さんが、あることに気付いたからだ。
「でもコレ、王家の印章が押されてるぜ。父さん」
それは、ダメでしょおぉぉぉ─────!!