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森から戻ると、既に父さんと兄さんが家にいた。
入れ違いだったか。
父さんと母さんは、たった1週間しか離れていないというのに、もはや感動の再会みたいになってる。
なんなんだ。毎月よく飽きねーな。
つうか、兄さんは?
3ヶ月ぶりの兄さんだぞ。父さんよりレアだよ、母さん。
「おー、ハルト。元気にしてたか?
また背が伸び………てないな。ハハハ」
騎士学校に編入してから、兄さんは異常に背が伸びた。
16歳で175cmってどうなの? まだ伸ばす気か?
「3ヶ月で伸びるわけないだろ。兄さんがおかしいんだよ」
喧嘩売ってんのか。
だいたい俺は10歳のお子様なわけ。むしろ伸び代しかないね。兄さんは後2~3年ってとこだろ。
それに比べて、俺は8年もある。たぶん。
「そうか? オレは伸びたぞ」
うそ、、、だろ?! そんなことあっていいのか!
「へ、へえ。何センチくらい」
「先週の計測で177だった。同室の奴が180超えたっつってたから、オレも早く伸ばしたいんだけど」
「へえ~177。180超えてんだー。へー」
そうだ。問題ない。俺だって16になればそれぐらい。
父さんだって182あるし?
父さんと兄さんの遺伝子を考えたら余裕じゃね。
まあ俺、母さん似だけど!
「ほい。コレ土産な」
「あんがと」
土産をくれたって、俺の傷付いた心は癒されないぞ。
「っ、コレは!」
「手紙で欲しいって言ってただろ。犬用のブラシ」
「おおっ! 兄さんバンザイ! 神!」
「ハッハッハ。もっと褒めても良いぞ。
それより、そのクロはいないのか? 前回も会えなかったしよー」
そういや、そうだったな。
「また明日来ると思うから、会えるって」
「ならいいけど。それよりハルト。
お前わざと気付かないフリしてるだろ」
ギクッ。
「な、何が」
「右向け、右。父さんが手を広げて待ってるぞ」
知ってる。
本当にウチの両親はどうなってるんだろう。
母さんとのハグに満足したらしい父さんは、次の標的に俺を選んだ。
俺もう10歳だよ、父さん。
たった1週間なんだよ、父さん。
「兄さんじゃない。3ヶ月ぶりなんだから」
「フッ。オレは街で先に合流したからな。
もう終わった」
さいですか。
そう話した兄さんが、なんだか一気に老け込んだ気がした。
「ごめん」
母さんがご飯を食べようと言い出すまで、俺は父さんに撫でくりまわされた。
只今、朝の5時です。
「いや早過ぎない?
まだ朝も食べてないよ」
兄さんと俺は、森にいた。
「ハルトの言う通りだ。父さん」
「だいたい、2人は昨日帰って来たばっかりじゃん。
疲れてないわけ? 寝た方が良いって。休めって」
なんなの、体力バカなの。
まだ寝足りないんですけど! ダラダラが足りない!
「いやー、実はな。街の神殿に寄った時、御告げを授かったんだ父さん」
当たり前みたいに言ってるけど、だいぶヤバくないか。
神の御告げなんて、神官や神子の役目だろ。
俺達、一般人には関係ないものだ。
「よし、父さん。とりあえず医者に診てもらおう。
まだ母さんには言うなよ、ハルト」
「はーい」
「さっ、帰ろう」
兄さんも同じ考えだったらしい。
冷めた目で父親をあやす様に見ている。背中ぽんぽん叩きながら。
「こら、お前達。父さんが嘘をついていると思ってるのか。
ハルトの名前だって、あの神殿で授かった御告げで決めたんだぞ!」
「またその話かよ。変な名前のせいで、ハルトがどれだけ苦労してると思ってんだ」
「カルロ! ハルトの名前は特別なんだ。誇らしいことはあっても、恥ずべきことなど1つもない!」
御告げ云々は怪しさ満点だが、名前に関しては何も言えない。
西洋系の名前ばかりの国で、俺の名前は浮いている。
前世と同じ名前だと考えると、どうにも転生関係の影響だとしか思えない。
あと別に苦労した覚えはない。
「ところで、どんな御告げだったの」
「ちょ、ハルトっ」
「さすがハルト! お前は信じてくれるか!
森の最奥に祠があるだろう。そこに行って、必要な物を持ち帰れという内容だ」
「何、お宝でもあるわけ?」
「知らん」
えー。じゃあ父さんだけで行けばいいじゃん。
俺達要らなくない。
「ついでに息子を同行させよ、とのことだったからな。
お前達2人を連れて来たわけだ」
何故だろう。とてつもなく嫌な予感しかしないんだが。