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無気力転生者の怠惰な暮らし  作者: ふぇりちた
無気力転生者、村を出る
5/18

3

 



 活発で行動力に溢れる兄、カルロ。

 気怠げで慎重さを備える弟、ハルト。

 性格は真逆だが、仲の良さは評判になる程だった。



「うっし、こんなもんか。

ハルト、そろそろ終わりにしようぜ」



 収穫後の畑を1/3耕し、カルロは満足気に弟を呼ぶ。



「ん。そうだね。午後にもう少し頑張れば今日中に終わりそう」

「はあっ? お前まだやる気か?

オレ、昼食ったら遊びに行くって言っちまった」

「別にいいよ。あとちょっとだし」

「けどよ~」

「それより兄さん、またあの人のとこ行くの?」



 ハルトの言う()()()とは、最近村に移り住んだ青年の事だ。彼は3日に一度、子供達に剣術や読み書きを教えている。



「おう。ハルトも来いよ」

「………むり。家でゴロゴロしたい」

「またそれか。たまには外で遊んだらどうだ?」

「いいの。畑手伝ってるんだから、運動だってしてるし」



 いつも通りの答えに呆れながら、カルロは持っていた鍬で素振りを始めた。

 ハルトは、ぼうっと兄の背中を見ていたが、やがてカルロの変な癖を見つける。



「兄さん。重心が左にズレてるよ。

あと振り下ろすタイミングが少し速い」

「え、マジで?

どこら辺? これぐらい?」



 指摘に腹を立てることもなく、あれこれポーズを変えながら試した結果。

カルロは周りも驚く程、メキメキ上達した。

 その後も、行き詰まればハルトに相談を繰り返し、大人も舌を巻く様な成長ぶりを見せた。





3週間後



「ハルト~、今村に傭兵団が来てるらしいぜ」

「何でウチに」

「なんか国々を周ってるらしい。見に行かないか?

きっと本物の剣持ってんだよ。いいなー、見てぇなあ」



 ハルトは乗り気では無かったが、カルロに引き摺られ、仕方なくついて行くことに。



「すげーっ、本当にいる!

なあって、見ろよ! ほら」

「ぐびっ首絞まってる、兄さんギブ、ギブっ」

「あ、わりわり」



 怒られない様、少し離れた所から見ていた兄弟は、村長によってあっさり見つかる。

 ちょっと覗くだけのはずが、何故か話の中心に担ぎ出され、ハルトの目はどんどん死んでゆく。



「団長さん。この子がカルロです」

「ああ、君かあ! 聞いたぞ、強いんだって?」

「へっ? や、いや、あの………」

「最近では、我々大人達も勝てないぐらいでねぇ。

どうですか。少し見てやってはくれませんか」



 村長のゴリ押しに負けた団長は、この後滞在を1週間延ばすことになったとか。








「ぐすっ、もう行っちゃうんでずがぁっ」

「ダァコラ泣くな!

カルロ、お前はもっと強くなる」

「だ、だんぢょお~」



 滞在最終日。

 村の門まで見送りに来たカルロは、それはもう酷い泣き顔で、大男にしがみ付く。

 団員達にニヤニヤ見られながら、照れた様子の団長は言った。



「カルロ。お前さん騎士学校に興味はあるか」

「えぐ、ずぴっ……き、ぎしぃ?」

「そうだ、騎士学校だ。

正直、その才能をココで腐らせるのは、ちと惜しい。

お前がその気なら、この推薦状をやる」

「でも、オレ、ただの農民だし………」

「大丈夫だ。実はな、傭兵団なんてやっちゃいるが、これでも騎士学校の出身なんだ」

「ぐすっ、団長、お貴族様だったのか?」



 学校は、貴族か豪商の者達だけが通う場所。

それが、村の子供達の共通の認識だった。

 カルロが戸惑うのも無理はない。



「んー、昔の話さ。

それより金の心配は要らねぇ。実力さえあれば、誰だって入れるぜ」

「ほ、本当にっ?」

「ああ。よく考えて、その気になったら王都に行くといい。この紹介状を見せりゃ、試験受けさせてもらえっから」

「う゛んっ」



 こうして傭兵団は、次の目的地へと旅立った。









「いやー、にしても見込みのあるヤツでしたね」

「おう。アイツは化けるぞ」



 村を後にした傭兵団は、カルロの話で盛り上がる。



「あー、でも! 私は弟の方も気になりましたよー」

「弟? ああ、あの変な名前の。ハルトだっけか?

不思議な響きだよなぁ。最近の流行りなのか?」

「さあ。というか、弟の方って何かあったっけ。

俺には普通……むしろ、鈍臭い感じに見えたけど」

「えーっ、見る目ないわよ、アンタ。

ねえ、団長?」



 後方支援を得意とする団員の1人が、ハルトの話題を振ると、団長は眉を寄せた。



「団長?」

「ん? あ、ああ。そうだな。彼は良い目を持っている。

カルロの上達の速さは、弟のおかげだろう」

「え、ちょマジっすか!」

「ほら見なさい。私が言った通りでしょ」

「ええー? 納得できねー」



 何となく変化を察した団員が、不思議そうに団長に尋ねる。



「何か気になる事でも?

うるさい様でしたら、彼奴ら黙らせますが」

「いや、違う。

弟の方を思い出しててな」

「気に入ってたんですか?

そのわりには、あんまり話しかけてませんでしたけど」



 そう。この団員が言う様に、滞在期間中、団長はハルトとほとんど会話していない。

カルロに集中していたから、という考え方もあるが、答えは違っていた。



「なあ、お前は何か感じなかったか?

あの弟の異質さを」

「? まあ、子供にしては落ち着いてたような」

「………そうか」

「何かあったんですか? ハルト君と」

「いんや。ただ、苦労するだろうなと思っただけだ」

「はあ。そりゃカルロ君は優秀ですから、比べられるかもしれませんね」

「────、そう、だな」



 出かけた言葉を飲み込んで、団長はそう肯定した。

 


(カルロ)より(ハルト)の方が、よっぽどバケモンだ。魔物でも精霊でもねえ。もっと上のナニカに気に入られてるんだからよお」

「団長ー? なんか言いましたかぁ」

「独り言だよ、独り言。

ほらさっさと歩け! 日が暮れるぞ」

「「「は────い」」」






─────────────

─────────

──────



 半年が経ち、旅先の傭兵団から便りが届いた。

 旅の話、カルロを気遣う言葉。そして。



『追伸

以前、ハルトが森に入れるという話をしていたのを思い出して、気になったので念のため書きます。

彼からは、人ならざる者の匂いを感じました。

恐らく、我々では対処出来ない程の存在に魅入られてしまったのでしょう。

森には気を付けて下さい。特に、得体の知れない特別なナニカには』



 手紙を読んだカリナは直感する。

 つい一昨日、ハルトが連れ帰って来た手負いの黒い獣のことだ、と。



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