表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無気力転生者の怠惰な暮らし  作者: ふぇりちた
無気力転生者、村を出る
3/18

1





「ハルトー! ご飯よーっ」

「今行くーっ」



 結論から言おう。未だ夢の中である。

───と、言いたいところだが、流石に10年も経ったら夢とは言い難い。

 くそっ。異世界転生って言ったら、もっと事前説明があるもんじゃないのか?


 あんなテキトーな感じで転生させられるなんてっ。



「母さん、お皿の準備出来たよ」

「あら、偉いわねー。ありがとう、ハルト」

「うん」



 俺は、農家の次男に生まれた。

 農業とは無縁の暮らしをしてきたけど、案外これが楽しい。

 田舎には学校なんて物はなく、毎日家の手伝いをしながら、のんびり生活している。


 母さんが作ったオムライスもどきと、畑で採れたサラダに舌鼓を打っていると、窓をコツコツ叩く音が聞こえた。



「ふふっ。今日も来たのね。ハルト、入れてあげなさい」

「まだご飯食べてるんだけど」

「ダメよ。あの子は、ハルトにしか懐いてないんだから。

ほら、早く入れてあげて」



 半年前に森で助けて以来、ほぼ毎日の様に奴はやって来る。

しかも、昼飯か夕飯時を狙ってだ。



「まったく。ウチは飯屋じゃないんだぞ」

「カリナのメシは美味いぞ」



 そう言って、我が物顔で窓から侵入しやがる、赤ちゃんライオンと子犬を足して割った様な外見の獣。

ぶっちゃけ何の生き物か知らない。

まず喋れるのが、コワイ。



「おい、クロ。身体はちゃんと洗って来たんだろうな」

「ちっ。ハルトはいちいちうるさいな。水浴びはして来た」

「なら良いけど」



 にしても毎度毎度、遠慮がねーな。

そして、そこは俺の席だ。

お前獣だろ? 何でぬいぐるみみたいに、ちょこんと座ってんだよ。

 中身おっさんじゃないだろうな。小人族が着ぐるみ着てるんじゃないだろうな!



「ハルト。早く食わせろ」

「こら、そのメシは俺の分なの。あと1人で食えるだろ」

「む。嫌だ。ハルトが食べさせろ」



 誰が想像出来るだろうか。人間の赤ん坊サイズの獣が、スプーンを使って子供(おれ)に、あーんされる姿を。

 しかも毎回膝の上。


 仕方なしに、いつもの様に膝に乗せ、コイツ専用のスプーンでオムライスを口に運ぶ。



「ん、美味い」

「へーへー、良かったな」

「ハルト、次は葉っぱだ」

「おー」



 クロは、何様だって言いたいレベルの我儘野郎だ。

だが、艶々の漆黒の毛並みに上質なシルクを綿(わた)にした様な手触り。おまけに瞳がキュルンとしてるもんだから、ついつい許してしまう。

正直に言って、めちゃくちゃ可愛い。


 食後に口の周りを拭いて、尻尾の先までブラッシングしてしまうのも仕方ない。

この容姿が悪いんだ。くっっ、卑怯だぞ、クロ。



「ハルト、ブラッシングはまだか」

「はいはい。今やってやるから」

「うむ。今日は背中を中心に頼む」



 こうして俺は急かされる様に、自分のご飯をかき込む。

次いで、せっせとクロの我儘に付き合わされるのだ。






「そろそろ、パパとカルロが帰って来るかしら」



 陽もどっぷり沈んだ頃。

 母さんが夕食の準備をしながら、ソワソワと言う。



「そうだね。そろそろかも」

「じゃあ門まで迎えに行こうか」

「ええっ? 家の前でいいじゃん。むしろ出て行く必要なくない?」



 3週間に1回程、父さんは畑で獲れた野菜を街まで売りに行く。

 当然ウチには馬を借りる余裕なんてない。

隣の村まで1時間かけてリヤカーで運び、荷馬車を借りて街まで出る。

 往復で移動に4日。露店で3日。

だから父さんは毎月1週間、家を空ける。

 子供から見てもラブラブな両親だ。

母さんは、その1週間がキツイらしい。



「でも、今回はカルロだって帰って来るし」

3ヶ月前(このまえ)だって、それで兄さんに怒られたんじゃなかったの」

「ううっ、だって」



 6つ上のカルロ兄さんは、村1番の期待の星だ。

 2年前、旅の傭兵団が村に立ち寄った。

兄さんはその時才能を見出され、騎士学校の卒業生だったドーマさんが、推薦状を書いてくれたんだ。

 それから王都の騎士学校の編入試験を受けて合格。

 貴族クラスと平民クラスがあって色々大変らしいけど、成績も上々。 

弟として実に誇らしい兄貴だ。

 騎士学校は、一部の貴族を除いて基本寮生活。平民としては非常に助かる。

しかも平民は学費、寮費、共にタダ!

その分かなり狭き門らしい。俺の兄さんは素晴らしいな、うん。



「母さん、そんな事してたら兄さんが帰って来なくなっちゃうよ」

「けど王都なんて遠いから、なかなか会いに行けないし……」

「何言ってんの。その遠い王都から、長期休みの度に帰って来てくれてんだぞ」

「ゔ」

「兄さんも思春期なんだって。ご飯いっぱい作って待ってようよ」



 母さんは「全く、ドライなんだから」とか何とかぶつくさ言いながら、凄まじい勢いで調理無双を始めた。



「お前は思春期ではないのか?」

「ん~、まだ10だしなー」

「10歳と言えば、そんなもんじゃないのか」

「人それぞれだよ、それぞれ」

「………どうにもハルトは年寄りくさいな」



 黙れ、タダ飯食らいの獣が。

 そもそも、死ぬ前も20代だったわ! 若者だ馬鹿野郎。



「そんな事言うなら、俺の腹の上からどけ。

昼寝なら十分だろ」

「なにっ?! ハルトのくせして生意気だぞ!」

「とっとと帰れ。夕飯は家族で食べるから」

「ふん、残念だったな。メシを作るのはカリナだ。

よってお前の指図は受けん」



 コイツ、マジで憎たらしいな、おい。



「母さん、クロ帰るってー」

「あらそう?

喋るわんちゃんなんて珍しいから、カルロにも会わせてあげたかったんだけど」

「ちがっ、ふがっ、むむぅ~!」

「何々、早く帰りたいって?

分かったから暴れるな、クロ」

「ふんがっ、ふがあぁ─────!!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ