1
空から見る王都は、想像以上の大きさだった。
圧巻の城郭都市と言えるだろう。
綺麗な八角形を描いた城壁に囲まれ、中心に向かっていくつかの道が真っ直ぐ引かれている。
ただ、残念な事に感動に浸る間もなく、メルちゃんが急降下したせいで、死ぬかと思った。
いやー、本当にこんな短時間で王都に着くとは。
1週間かかると踏んでたのに、まさかの2日目で到着ときた。
エディンバラからは、あと2つ街を挟んで王都だったはず。それを30分でショートカットするなんて………やっぱ、ワイバーンは恐ろしい。
「ほほ。今日は空いてる様だな」
「みたいね」
門に向かって伸びる長蛇の列。
貴族が乗っているであろう、超立派な馬車の列と、商人や冒険者らしい人々が並ぶ列がある。
当然、俺は後者なわけだけど、これで空いてるのかぁ。
さすが王都。スケールが違いすぎる。
「わしは戻るから、達者でな」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
御者のお爺さんは、降り立ってすぐ、メルちゃんとエディンバラに戻って行った。
最後の最後までぷるぷるしてたけど、身体は大丈夫なんだろうか。
「リーザさん。今更なんですけど、通行証とかって必要ですか?」
「通行料払えば大丈夫よ。私はギルドカードがあるし」
「なるほど」
ギルドカードは、一種の身分証明書代わりになるって事か。
俺も作っておくべきかな。けど、手紙渡したら帰るだけだし……手間がかかるだけだからやめとこ。
「あとは、貴族の印影が押されたものとか」
貴族の印影ねえ。
それなら、コレもそうじゃないか?
「例えば、こんなのとか?」
「そうそう。そういうやつ」
「おおっ。なら通行料は浮いたな。ラッキー」
「……待った。何でハルトがそんなもの持ってるの?
まさか本当に貴族の印影とか言わないわよね」
正確に言えば、貴族じゃなくて王家ですけど。
「一応、そんな感じのです」
「騙されてない?
怪しい奴に頼まれたんでしょ。そうでしょう?」
リーザさん首が痛いです。
彼女が俺の肩をガクガクと揺さぶるもんだから、答えるどころじゃない。
「リーザさん、前見てください。列進んでます」
「ああ、そうね。
っじゃない! いったいこんなものどうしたの!」
さて、どうしたものか。
リーザさんは、この印影が王家のものだとは知らないらしい。
この反応からして、信じてもらえないだろう。
つまり、門番の人もそうじゃないか?
貴族用の列ならまだしも、ただの農民が見せたところで、捕まるだけかもしれない。
印章の贋作作ったとか言われたら、死ぬ。
ここは、無難に通行料を払おう。
そして、兄さんに相談してから手紙を届ける。うん、この流れが安全だ。
「預かってるんです。その方は、名のある方なので大丈夫ですよ」
「(だから、それが騙されてるんじゃ……何も知らない若者を騙すなんて許せないわ!)」
「何ですか、その顔は。
わかりました。とりあえず、この手紙は出さずに通行料払いますから」
「絶対それが良いわ。
なんなら、そのお金も私が出すから」
「さすがに、そこまでしていただかなくて大丈夫です」
リーザさんの中で、俺の立ち位置が変わった気がする。
命の恩人から騙された田舎者的なやつに。
「その手紙については、あとで聞くとして。
今はご飯食べちゃおう」
「今ですか?」
「そっ。おやつ的な感じ。あと1時間くらいかかると思うし、王都のご飯屋は混んでるから」
もしかして、エディンバラで言ってた「食料用意する」って、これの事か。
ワイバーン乗るなんて知らなかったから、荷物少ないなと思ってたんだよ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
バケットに挟まれた、もりもりのスライス肉と野菜。
高級なパン屋で売ってるサンドウィッチみたいだ。
すげー美味そうっ。
「クロのは、どうする?
魔物用のおやつ買ったんだけど、パンも同じのあるよ」
「魔物用など食わん」
「わ! またしゃべった。やっぱり夢じゃなかったんだ」
腕の中で静かにしていたクロも、美味そうな匂いにつられたらしい。
体勢を変え、食べる準備万端だ。
「良かったな、クロ。
ちゃんとリーザさんにお礼言うんだぞ」
「まあ小娘にしては、悪くないチョイスだ」
「クロ!」
それはお礼じゃない。
「いいのよ。お眼鏡にかなったなら。
味も保証するわ!」
天使だ。
こんな憎たらしい態度しかとってないのに、優しすぎる!
「本当にすみません。ツンデレというか、口が悪くて」
「うん。なんとなくわかったから大丈夫。
それより、食べてみて」
「ありがとうございます。いただきます!」
うまっ! 食欲をそそる香りに、かぶりつけば、あっという間になくなってしまった。
リーザさんは、3口でいってたが、見なかった事にしよう。
絶対、帰りに買って食べよう。
「すっごい美味しいです!
有名なところなんですか?」
「ふっふっふ。どこだと思う?」
「エディンバラの中心街にあるお店とか」
「ブブー」
「まさか、今朝ご馳走になったステーキ屋!」
あそこなら、肉料理がメインだしあり得る。
ステーキだって、朝っぱらじゃなければ最高に美味しかったはずだ。
「ざんねーん。
これはね、私達を送り届けてくれた御者さんが作ったの」
「……………はい?」
え、あのぷるぷる爺さん?
マジで?
「ふむ。ハルトよ、用が済んだら、あの鳥ごと引き取るぞ」
「やめなさい」
なんて事を言うんだ、この獣は。
いくら小人サイズだからって、誘拐はダメだ。
あとメルちゃんは、頼まれても引き取れない。
家に連れて帰るとうるさいクロをなだめていたら、ついに俺達の順番が来た。
「えーっと、そっちの君もギルドカード出して」
「ただの農民なので、カードは持ってません」
「ん? テイマーじゃないのか?」
だから違うんだって。自称神獣なんです。
「相棒です」
「そうか、そうか。じゃあ、早急に獣魔登録するように!
よし、通っていいぞ」
「いや、うちのクロは違うんです!」
「はいはい、列つかえてるからね。
そうだ、君。登録されてない獣魔を連れて歩いたら、罰金刑もしくは、実刑だぞ」
「えっ」
「はい、次の人ー」
今からクロには、ぬいぐるみのフリをしてもらおう。
それしかない!
今回から王都生活スタートです。
ブックマーク&評価、いいね、ありがとうございます!!