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無気力転生者の怠惰な暮らし  作者: ふぇりちた
無気力転生者、うさ耳族と出会う
11/18

1

 


 村名もない程の田舎から、王都までの道のりは果てしない。

 街から街へ馬車を乗り継ぎ、俺達はエディンバラという中都市にやって来た。



 やっと、2/3かー。遠過ぎるぞ、王都。

 兄さんが、毎回こんな長距離を帰って来てくれていたんだと考えると、泣けてくる。



「もうすぐ、エディンバラの入口が見えて来るはずだ」

「おー。

やっとベッドで眠れる! まずは宿探しで良いよな~。

………どうした、クロ」



 門まで続く1本道を歩いていると、クロが急に足を止めた。

 おいおい、こんな街の近くで魔物か?

 自慢じゃないが、15歳になっても俺はもやしだ。

頼んだぞ、クロ様。



「ふむ。問題ない。小動物だ」

「小動物? へー、どの辺?」



 脇の林をキョロキョロ見渡しても、動物らしき生き物は見当たらない。



「少し先だ。まあ放っておけ。虫の息だ」

「バカっ、それを早く言え!

助けるぞっ!」



 クロの案内で、少し奥に入った場所に地面に横たわる何かを発見した。



「小動物っていうか、人間だよな。あれ」

「正確には、獣人だな。うさぎの」

「獣人。うさぎ、うさ耳!

本当だ、耳ついてる! うさ耳初めて見た!」



 本当に人間にうさ耳が生えてる! 

だいぶ、感動です。ちょっと汚れてるけど、ふわふわな質感は視認出来た。ロップイヤーってやつかな。垂れ耳だ。触ってみたい。



「助けるんじゃなかったのか」

「はっ、つい。

すみませーん! 大丈夫ですかー」



 俺としたことが、生まれて初めての獣人族に興奮してしまった。

 駆け寄りながら声をかけてみるが、返事はない。

うつ伏せで倒れてるけど、大丈夫だろうか。

血は………出てないよな。



「あのっ、聞こえますか。

意識ありますか?」



 全然反応がないぞ。脈はあるけど、え、死なないよね。

どうすんの、これ。人命救助の経験も知識もありませんが。

しかも傷らしき傷もないし。内蔵とかじゃないだろうな。

仰向けにして、外傷の確認だけしとこう。

いや、くも膜下出血とかだと動かさない方が良いって言うし。



「クロ、どうしよう」

「声はかけたんだ。もう行くぞ」

「えっ。この人、このまま放置すんの?

無理だよ。目覚めが悪過ぎるって」



 死にかけてるかもしれない人を野晒しにするなんて無理。

そんな度胸は、ない。



「だったらどうする。

そいつを連れて、街に入るつもりか?」

「うーん。アリかもしれない」

「なに!?」

「よし。担いで行こう。

本当は動かしちゃいけないんだろうけど」



 どうにか頭を固定出来ねーかな。

タオルで首をぐるぐる巻きにしたら、少しは固定されるかも。



「おい、ハルト」

「ちょっと失礼しますよー」



 ひょいと、仰向けにひっくり返す。

やっぱり目立った怪我はなさそうだ。

マントで分からなかったけど、女の人だったのか。

ごめんなさいね。緊急事態だから、訴えないで。



「クロ、俺のリュックからタオル出して」

「………はぁ、余計なことを」



 首が締まらない程度に巻き付け、紐でゆるく固定する。

あとは負ぶる時に、肩にハンカチを噛ませて顎が乗る様にして。

 前リュック、後ろ急病人。もやし体型にはキツイ。



「よいしょっっと。

ぅ、クロ、少し手伝って」

「だから放っておけと言ったんだ。

さっさと門兵に渡して来い」

「ケチぃ~」



 重い。よく見たらこの人、ゴツい短刀提げてるじゃん。

 もうちょっとなのに、門が遠い。



 ぜえはあ言いながら入口に着くと、門兵さんが心配そうにこちらを見ているではないか。

ヘルプ! 腕が限界です!



「君、どうした。仲間がやられたのか」

「いや、林で倒れてたの見つけて。

あの、すいません。この人お願い出来ます?」



 勝手に門兵さん用の椅子に、うさ耳を下ろし、満身創痍でお願いしてみる。



「まあ、もう交代時間だから構わないが。

あー、君。通行料とそれは獣魔か?」

「ありがとうございます! よろしくお願いします。

はい、通行料です。コイツは俺の相棒で、獣魔じゃないんです」



 声には出さないが、明らかにクロの機嫌が悪くなっている。

獣魔って呼ばれたのが気に食わなかったんだろうな。



「そうなのかい?

見たことない種族だが、いったい何の魔物なんだ?

ウルフでもないし、ネコでもないよな」

「んー、実は俺も知らなくて。

ずっと一緒にいるので、安全は保証します」



 まさか自称神獣、通称山神様だなんて言えねーし。

やっぱり王都に近付く程、警備が厳しくなってくるな。

今まではスルーされてたのに。



「困ったな。確かに大人しいし、躾もきちんとされてるんだろうが、例外は認められないんだ。

悪いが、ギルドで獣魔登録してくれるか」

「獣魔登録ですか」



 やばい。クロの機嫌が急降下だ。もはや地面を抉ってる。

 そもそも、クロは獣魔として登録出来るのか?



「ああ。市場を抜けて、突き当たりを右に進むと、太陽ギルドってギルドがある。

そこなら、初心者も入りやすい所だから、行ってみたらどうだ?」

「ご親切にありがとうございます。行ってみますね」

「良い旅を」



 太陽ギルドか。登録云々はクロ次第だから分からないけど、行くだけ行ってみよう。



 入門して1分も歩けば、活気ある市場が広がっていた。

 


「すげーっ。今までと規模が全然違う」

「宿もそれなりに期待出来そうだな」

「そうだね。懐の心配はあるけど」

「それより、あの門兵だっ!

我を獣魔だと? なんたる屈辱っ、噛み殺してやるところだったわ」



 あちゃー。カンカンじゃないの。

 あんまり無駄遣いしたくないけど、今日は夕食を奮発するしかないか。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「う………ん、う゛」

「おや、目が覚めたかい」



 リーザは、街が運営する診療所で目を覚ました。

 居合わせた医師が彼女に気付き、声をかける。



「私、何でこんなとこに………

そうだ、魔法を使ったら急に身体が冷えて」

「恐らく、魔力欠乏症だね。

少しでも発見が遅かったら、危なかっただろう」

「魔力欠乏症? うそ。そんなに使ってないのにっ」



 魔法を使う際、保持する魔力量を上回った時に起こる魔力欠乏症。

 先天的なものと、彼女の様に一時的に陥る者もいる。

 だが、どちらにも言えるのは、生命活動が著しく低下してしまう症状で、とても危険な状態だということだ。



「此処までは門兵の人が連れて来てくれたんだよ」

「門兵が?」

「街まで運んだのは、別の人らしいけどねえ。

いやあ、良かったね~」

「私を……街まで」

「今度会ったら、お礼を言っておくんだよ」

「はい」



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