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拝啓
父さん、貴方が授かった御告げは本当でした。
というか、俺のせいでした。敬具
「死んでないわ」
「あっ、なんか懐かしい、このやり取り」
「そうね。転生後も変わってなくて何よりだわ。
変な野心とか抱いていたら、記憶を消してやろうと思っていたから」
向上心なくて良かった。
ただの村人に生まれて良かったっ!
「けれど、あまりにこの世界に興味がないでしょう。
これでは与えたスキルが無意味だわ」
「すみません。スキルを鑑定してもらう場所がなくて」
「普通なら、鑑定を待たずに自分で試していくものじゃないの」
「そうなんですか」
「知らないわよ。今までの人間がそうだっただけ」
ああ。例の社畜さん達。
「───ということは、あの手紙を書いたのって」
「そうよ。彼れは、同じ日本人だったかしら。
屋敷に籠って人生を終えたわ」
「そ、そうですか」
「ええ。死ぬ間際に、同郷の者が現れたら渡してくれと言ってたのを思い出したの。
これでアサバ ハルトの望みは叶うのではなくて」
叶うも何も、現在進行形で衣食住完備されてますが。
むしろ関わり合いになりたくない。
「もちろん受け取るわよね」
「………」
ひいっ。目がスッて。スッてした。
神秘的な美貌は、もはや恐怖を禁じ得ない。
「アサバ ハルト?」
「あっ有難く頂戴致します!!」
「そう。では成人したら、其れを持って王都へ向かいなさい。あとは好きにしたら良いわ。彼れからの伝言よ」
「はいっ」
「用はそれだけよ。帰っていいわ。
それと、忘れてはいるまいな。愚かな野心など持たず、静かに死になさい」
「肝に銘じます!」
───プツンっ
「ると、ハルトっ!」
「…………ん、とう、さん」
気付いたら、俺は洞窟で横になっていた。
父さんと兄さんが心配そうに声をかけてくれる中、クロだけは眠たそうにこちらを見ている。
自称神獣だからな。何か知っていたのかもしれない。
「ハルト、本当に大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめん」
「いったい何が起こったんだ。急に光ったと思ったら、お前は倒れてるし」
神様に会ってました。って言って、信じてもらえるだろうか。
とは言え、手紙は俺宛らしいから持って行かれては困る。
「え~っと、んー」
「あの方は何と?
その手紙は、やはりお前と関係があったのだろう」
「あの方? あの方とは誰のことですか。クロ様」
ナイスアシスト! クロ!
父さん達的に、クロは偉いひと……獣らしいから信憑性増し増しなんじゃないか?
「貴様を此処に連れて来た方に決まっておろう」
「連れて来たって、まさか」
ギギギッて擬音がピッタリな首の動きで、父さんが俺に助けを求めてくる。
だけど事実だから仕方ない。
俺は目を伏せて、そっと頷いた。
「ぁああ゛、何てことだっ!
ウチの息子が何故!」
「父さん?
ハルトがどうかしたのか? 説明してくれっ」
ご乱心の父。パニックの兄。
兄さんに至っては、この1時間強で完全にキャパシティ超えちゃってると思う。
ぐすっ。これ以上は上げられない。兄さんが倒れる。
「カルロ、とりあえず帰って寝よう。
疲れただろう。そうだ、それが良い」
「ちょ、父さんっ?」
あ、父さんが現実逃避を始めた。
「クロ様もいらっしゃいますよね」
「当然だ。朝はもう食ったのか」
「いいえ、まだです。ぜひ、ご一緒に」
「うむ」
「父さん、オレの話はまだ終わってないだろ。
ハルトがどうしたんだよ。大丈夫なんだろうな」
「さあ、2人とも帰るぞー。カリナが朝食作って待ってる。ハハハ」
「おい父さん! ちっ、ダメだ。聞いてねぇ」
なんか………ごめん、兄さん。
おつかい?頼まれちゃった。でも成人まで5年近くあるし、今んとこ大丈夫だよ。
「兄さん、俺は大丈夫だから帰ろう」
「大丈夫なわけあるか。変なことに巻き込まれたんじゃないのかっ」
「んー、まあ帰ったら話すよ」
「絶対だぞ。はぐらかすなよっ」
「うん」
「真面目に話さないなら、オレは宿舎に戻らねーからな」
や、真面目に話すけどね。どっちかって言うと、兄さんが俺の話を信じてくれるかどうかの問題だと思う。
それから、宿舎戻らないと退学だから戻ってくれ。
村1番の期待の星なんだから。俺のせいだってバレたら一生除け者にされる。そんなの嫌だ。
俺達は、魔物に遭遇することもなく無事に下山し、母さんのご飯を食べた。
クロは予想通り、兄さんのお土産が気に入った様だ。
スライムみたいに溶けてたから、間違いない。
それはもう、ふにゃふにゃあ~っと頬がダラケっぱなしだった。
スマホがあったら、絶対連写しまくってた自信がある。
少し身体を休めた後、俺は家族にざっくりと話した。
前世とか異世界出身だとかは、それとなく濁して、生まれる前に神様と会った記憶がある~的な、ビックリ人間だと説明した。
成人したら王都に手紙を運ぶように指示されたと伝えたら、お前にそんな大役が務まるのかと、全員から言われた。解せん。
普通は、神童と持て囃されるか、畏怖の対象になると思うんだけど………ウチの家族は違ったらしい。
ただのおつかいなんだけどね。しかも15歳になってから。
───5年後
「ハルト、くれぐれも気を付けるのよ」
「何かあったら、すぐカルロの所に転がり込むんだぞ」
ついに旅立ちの日はやって来た。
俺としては、王都観光したら帰って来るつもりなんだけど、父さん達は違うらしい。
「うん。ちょっと遊んで、兄さんの様子見て帰るよ」
「馬鹿言わないの。手紙の持ち主さんの好意を無駄にする気?」
「ええ、帰って来るなと?
酷くない。母さん」
「ハッハッハ。いいか、ハルト。とにかく生きて帰って来い」
いやだから、おつかいに行くだけなんですって。
「クロ~。俺のこと忘れるなよお」
見送りに来てくれたクロを抱き上げ、ここぞとばかりに毛並みを堪能する。
5年経っても、クロは相変わらず赤ちゃんライオンのままだ。
「忘れるわけがないだろう。単細胞呼ばわりする気か」
「だって、ほぼ毎日会ってるんだぞ?
寂しくもなるだろ」
「? 我もついて行くぞ」
「え」
「ほら、ハルト。クロ様のブラシ忘れてるわよ」
「え」
ついて来るの? 一応、村では山神様なんだろ?
俺、恨まれるんじゃね。特に村長あたりから。
「母さん知ってたのか」
「当たり前じゃない。クロ様が一緒だって言うから、私達は安心して送り出せるのよ~」
「ああ、母さんの言う通りだな」
「ええ~」
もう考えるのやめよ。
「行って来るわ」
「「いってらっしゃーい」」
薄情な親達め。
兄さんに愚痴ってやる!