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無気力転生者の怠惰な暮らし  作者: ふぇりちた
無気力転生者、村を出る
10/18

8



拝啓

父さん、貴方が授かった御告げは本当でした。

というか、俺のせいでした。敬具




「死んでないわ」

「あっ、なんか懐かしい、このやり取り」

「そうね。転生後も変わってなくて何よりだわ。

変な野心とか抱いていたら、記憶を消してやろうと思っていたから」



 向上心なくて良かった。

 ただの村人に生まれて良かったっ!



「けれど、あまりにこの世界に興味がないでしょう。

これでは与えたスキルが無意味だわ」

「すみません。スキルを鑑定してもらう場所がなくて」

「普通なら、鑑定を待たずに自分で試していくものじゃないの」

「そうなんですか」

「知らないわよ。今までの人間がそうだっただけ」



 ああ。例の社畜さん達。



「───ということは、あの手紙を書いたのって」

「そうよ。()れは、同じ日本人だったかしら。

屋敷に籠って人生を終えたわ」

「そ、そうですか」

「ええ。死ぬ間際に、同郷の者が現れたら渡してくれと言ってたのを思い出したの。

これでアサバ ハルトの望みは叶うのではなくて」



 叶うも何も、現在進行形で衣食住完備されてますが。

 むしろ関わり合いになりたくない。



「もちろん受け取るわよね」

「………」



 ひいっ。目がスッて。スッてした。

 神秘的な美貌は、もはや恐怖を禁じ得ない。



「アサバ ハルト?」

「あっ有難く頂戴致します!!」

「そう。では成人したら、其れを持って王都へ向かいなさい。あとは好きにしたら良いわ。彼れからの伝言よ」

「はいっ」

「用はそれだけよ。帰っていいわ。

それと、忘れてはいるまいな。愚かな野心など持たず、静かに死になさい」

「肝に銘じます!」




───プツンっ







「ると、ハルトっ!」

「…………ん、とう、さん」



 気付いたら、俺は洞窟で横になっていた。

 父さんと兄さんが心配そうに声をかけてくれる中、クロだけは眠たそうにこちらを見ている。

 自称神獣だからな。何か知っていたのかもしれない。



「ハルト、本当に大丈夫なのか?」

「うん。心配かけてごめん」

「いったい何が起こったんだ。急に光ったと思ったら、お前は倒れてるし」



 神様に会ってました。って言って、信じてもらえるだろうか。

 とは言え、手紙は俺宛らしいから持って行かれては困る。



「え~っと、んー」

「あの方は何と?

その手紙は、やはりお前と関係があったのだろう」

「あの方? あの方とは誰のことですか。クロ様」



 ナイスアシスト! クロ!

 父さん達的に、クロは偉いひと……獣らしいから信憑性増し増しなんじゃないか?



「貴様を此処に連れて来た方に決まっておろう」

「連れて来たって、まさか」



 ギギギッて擬音がピッタリな首の動きで、父さんが俺に助けを求めてくる。

だけど事実だから仕方ない。

俺は目を伏せて、そっと頷いた。



「ぁああ゛、何てことだっ!

ウチの息子が何故!」

「父さん?

ハルトがどうかしたのか? 説明してくれっ」



 ご乱心の父。パニックの兄。

兄さんに至っては、この1時間強で完全にキャパシティ超えちゃってると思う。

ぐすっ。これ以上は上げられない。兄さんが倒れる。



「カルロ、とりあえず帰って寝よう。

疲れただろう。そうだ、それが良い」

「ちょ、父さんっ?」



 あ、父さんが現実逃避を始めた。



「クロ様もいらっしゃいますよね」

「当然だ。朝はもう食ったのか」

「いいえ、まだです。ぜひ、ご一緒に」

「うむ」

「父さん、オレの話はまだ終わってないだろ。

ハルトがどうしたんだよ。大丈夫なんだろうな」

「さあ、2人とも帰るぞー。カリナが朝食作って待ってる。ハハハ」

「おい父さん! ちっ、ダメだ。聞いてねぇ」



 なんか………ごめん、兄さん。

 おつかい?頼まれちゃった。でも成人まで5年近くあるし、今んとこ大丈夫だよ。



「兄さん、俺は大丈夫だから帰ろう」

「大丈夫なわけあるか。変なことに巻き込まれたんじゃないのかっ」

「んー、まあ帰ったら話すよ」

「絶対だぞ。はぐらかすなよっ」

「うん」

「真面目に話さないなら、オレは宿舎に戻らねーからな」



 や、真面目に話すけどね。どっちかって言うと、兄さんが俺の話を信じてくれるかどうかの問題だと思う。

 それから、宿舎戻らないと退学だから戻ってくれ。

村1番の期待の星なんだから。俺のせいだってバレたら一生除け者にされる。そんなの嫌だ。




 



 

 俺達は、魔物に遭遇することもなく無事に下山し、母さんのご飯を食べた。

 クロは予想通り、兄さんのお土産(ブラシ)が気に入った様だ。

スライムみたいに溶けてたから、間違いない。

それはもう、ふにゃふにゃあ~っと頬がダラケっぱなしだった。

 スマホがあったら、絶対連写しまくってた自信がある。



 少し身体を休めた後、俺は家族にざっくりと話した。

前世とか異世界出身だとかは、それとなく濁して、生まれる前に神様と会った記憶がある~的な、ビックリ人間だと説明した。

 成人したら王都に手紙を運ぶように指示されたと伝えたら、お前にそんな大役が務まるのかと、全員から言われた。解せん。

普通は、神童と持て囃されるか、畏怖の対象になると思うんだけど………ウチの家族は違ったらしい。

ただのおつかいなんだけどね。しかも15歳になってから。









───5年後




「ハルト、くれぐれも気を付けるのよ」

「何かあったら、すぐカルロの所に転がり込むんだぞ」



 ついに旅立ちの日はやって来た。

 俺としては、王都観光したら帰って来るつもりなんだけど、父さん達は違うらしい。



「うん。ちょっと遊んで、兄さんの様子見て帰るよ」

「馬鹿言わないの。手紙の持ち主さんの好意を無駄にする気?」

「ええ、帰って来るなと?

酷くない。母さん」

「ハッハッハ。いいか、ハルト。とにかく生きて帰って来い」



 いやだから、おつかいに行くだけなんですって。



「クロ~。俺のこと忘れるなよお」



 見送りに来てくれたクロを抱き上げ、ここぞとばかりに毛並みを堪能する。

 5年経っても、クロは相変わらず赤ちゃんライオンのままだ。



「忘れるわけがないだろう。単細胞呼ばわりする気か」

「だって、ほぼ毎日会ってるんだぞ?

寂しくもなるだろ」

「? 我もついて行くぞ」

「え」

「ほら、ハルト。クロ様のブラシ忘れてるわよ」

「え」



 ついて来るの? 一応、村では山神様なんだろ?

 俺、恨まれるんじゃね。特に村長あたりから。



「母さん知ってたのか」

「当たり前じゃない。クロ様が一緒だって言うから、私達は安心して送り出せるのよ~」

「ああ、母さんの言う通りだな」

「ええ~」



 もう考えるのやめよ。



「行って来るわ」

「「いってらっしゃーい」」



 薄情な親達め。

 兄さんに愚痴ってやる!




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