なんでもない日常のちょっとしたイタズラ
出勤だ。しかし、遅刻必至。近くの書店でバイトをしているおれは、遅刻の常習犯である。そんなおれでも、3日連続での遅刻はまずいことくらいはわかる。遅刻は恐ろしい。繰り返すごとに可愛げがなくなっていくのだ。遅刻してテヘペロできるのは、一部の与えられし者だけだ。おれは違う。仕方ない。利己的な目的に使うのは気が咎めるが、やるしかない。
「出でよ!我が窮地に来やれ!電動自転車!」
天高く手をかかげ、力を込める。おれの力は、雲にイメージを投影して顕現させるものだ。最悪、水があれば、なんとかできなくもないが、とても難しいので練習中だ。
「ママー、あのおじさん、お空見てるね。僕もきれいな空好きだよ。」
「見ちゃだめよ。そうね、あっちでお空見ましょうか。さあ、行きましょ。」
エネルギー以外のコストがかかることもある。とてもリスキーな能力だ。
頭上の雲がなんとなく自転車の形になってきた。いける。念を強めると、おれの頭上に自転車が現れ、おれを地面へ叩き潰した。
「ぬおお、ぬおおおおお。」
痛い。とても痛い。今回は焦ってしまった。元々、このコントロールは苦手なのだが、半分実体化した状態で移動させないと、ものによっては、こういう事故に繋がる。自動車とかゾウとかを召還するときは、気を付けなければならない。熟練者になると、雲をゲートのように扱い、空想と現実の狭間を行き来できるようになるらしいのだが、繰り返す、おれは練習中だ。
ひとまず、自転車にまたがり、コンビニへ向かった。
少し特殊なことができるからと言って、やることは、人間として、大して変わらないのだ。
身の丈にあった幸せを求める日々だ。
今は、とにかく、バイトに向かわねば。