9章 デジタル金庫の真相-8
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
2022/11/25 14:50
雅樹たちは金庫の鍵は開けたが、中は触らず警察を呼び警察が来て調べられた。警察の調べが入る前に下手に触って指紋でも付き、もし彰人氏が生前脱税などをしていた場合は関与していた可能性を疑われてしまうからである。これは元警察の忠司からの助言だった。
警察が調べている間、当然金庫を開けた雅樹たちもその経緯などを聞かれバタバタしてしまった。結局リモコンの電池を忠司が買いに行けたのは夕方近くになってからだった。
結局、彰人氏は脱税などしていなかった。噂通り銀行を信用していなかったようで、自分の給料などの『自分の財産を』金庫に保管していただけである。警察の捜査が済むと、あとはすべて奥さんが引き取ることになった。
雅樹がそういえばめっちゃ腹減ったと言い、その一言で一同は昼食を取りそびれたことを思い出した。お皿によそられたビーフシチューは冷めてしまったので、電子レンジで温められて出された。この電子レンジも最近のものらしく、短時間しかレンジにかけていないのにまるで火で温めた直後かのように全体がまんべんなく熱かった。もちろん雅樹が一番最初に食べ始め、おかわりまでもらっていた。
この和子夫人がとても気前が良い人で、私一人でこんなに持っていても仕方ないからと金庫の中身の1割を成功報酬としてくれた。和子夫人の息子夫婦も、そもそも開けてもらえなければ手に入らないお金だったからと渋らなかった。
「彰人さん本人は殺されてしまったけれど、逮捕されたお孫さんの見立ては正しかったのかもね。1割でもすごい額よ、これ。やっぱりお金は人を変えてしまうのかしら。」
事務所に戻ってきたのり子が、今回の事件の書類をまとめながら残念そうに言う。忠司がパソコンへの打ち込みをしながら誰にともなく言う。
「あのあと警部から聞いたが、お孫さんと彰人さんは別に仲が悪いとかはなかったようだ。ただ彰人さんは金には厳しい人だったみたいでな、お孫さんが金に困っていることを分かったうえで『周りが援助してしまってはアイツはいつまでも半人前だ』と身内の援助も固く禁止していたそうだ。それを知ったお孫さんが彰人さんへ直談判へ行き、その考えに納得いかなかったのかよほど金が欲しかったのか…。脅すつもりで持って行ったナイフで思わず刺し殺してしまったと自白したみたいだぞ。」
お金の魔力は恐ろしい、仲の良い身内の命でさえ一瞬で奪ってしまうのだから。
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