1章 アパレル女性 絞殺事件-8 山上武夫
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
「では最後は被害者のやよいさんと発見者の滝美野さんの上司である山上だ。去年まで名古屋にいたようだが、今年の春の辞令で都内に単身赴任してきたという。やよいさんから厳しくされていることに悩む滝美野さんから相談を受け、プライベートでも合うようになり男女の関係に発展。しかし1か月ほど前から滝美野さんには忙しいなどと言って会わなくなり、それからすぐにやよいさんと関係を持っていることが職場で噂になり出したようだ。」
「女子の多い職場はねー、下手なことするとすぐ広まっちゃうのよね。あなた達も女社会の情報網を甘く見ちゃダメよ?」
のり子が男性陣に向かって言うと、警部が続ける。
「同僚によると滝美野さんも最初はショックを受けていたようだが、"慰謝料請求される前に火遊びは終わりにしなきゃね"などと切り替えていたそうだ。そこでな、ここからが重要なんだがどうやら事件同日、この山上はやよいさんに会っていたんだ。足跡の件を話したらどうせ調べたらわかることだから、とあっさり認めたよ。」
のり子が興奮気味に身を乗り出しながら言う。
「やっぱり!その山上が犯人よ。アタシの予想通り何かの拍子に喧嘩になって、奥さんにバラすとかなんとか言われてカッとなって殺しちゃったのね!」
警部は続ける。
「我々もそう思ったんだが、山上本人は会ったことは認めているが殺しは否定しているんだ。なんでも滝美野さんが通報する1時間前に会いに行ったが、離婚して一緒になってほしいと迫るやよいさんと痴話喧嘩になったという。それがヒートアップしてきてやよいさんが山上の奥さんとSNSでつながっていることを匂わせてきたため、お互い頭を冷やすためにその日は帰ったそうだ。自宅に帰ってひと眠りしてからやよいさんにまた電話しようと思っていたところ、捜査員が訪ねてきて眠りから覚めたと言っていたよ。」
「川島田の女のカンも、当たらずも遠からずってところか」
忠司がつぶやくと、すかさずのり子が反応する。
「何よ、全部アタシの予想通りよ。あとは証拠に凶器のビニール紐か、やよいさんが倒れていた現場に犯人を決定づける何かあればいいんだけど。」
「現場に何か手がかりはなかったのでしょうか?凶器はもう処分されているでしょうが。」
雅樹が警部に質問する。
「だろうな、ありきたりなビニール紐だし。現場にあったものと言えば、玄関に27cmの靴跡がはっきり残っていたがこれは山上のものだろう。他には女物の服によく使われる小さなピンクのボタンが靴棚の下の奥に落ちており、靴棚の上には被害者のスマートフォンとビニール紐。それから男物だろうイヤリングも片方だけ置いてあったな。それぞれ鑑識で調べているが…結果待ちだ。」
警部はそれを答えると、もう冷たくなってしまったお茶を一気に飲み干した。
「今日はここまでだ。2日後には鑑識の結果も出るだろうということで犯人の行動や逃走ルートの確認などでまた関係者に集まってもらうんだ、そうしたらまた情報を持ってくるよ。くれぐれも、秘密厳守にな。」
そういうと警部は帰っていった。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
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