8章 負けられない戦い-9
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
2022/11/4 13:20
果たして答えは正解であった。一夫の息子信哉は会社での自分の扱いを社長のせいだと逆恨みし、また雅也の予想通り妻の遊び相手が父親ということは分かっていたのである。そして旅行出発の当日、偶然アラームより早く起きた信哉はとっさにこの犯行を思いついた。そうだ飛行機に乗るんだ、気圧の変動で自然に発作が起きたようにしてしまおうと。最初は信哉の目論見通り一夫の薬の飲み違いによる事故死だと思われたが、司法解剖などが行われた結果殺人事件としての捜査に切り替わってしまったのであった。そして誰にも触らせなかった一夫のピルケースの、それも内側に信哉の真新しい指紋がついていたのが決め手だった。
「なんか結果だけ聞くとすごくシンプルだし、確かに証言を照らし合わせれば信哉さんだけど…。アタシ納得いかない。」のり子はもちろん不機嫌である。
「いや、突発的な犯行なんてこんなもんさ。計画犯罪では真っ先に気を付ける指紋や凶器も、突発的犯行の場合犯人もそこまで頭にないパターンが多い。それに今回の事件は結果だけ見ると一見単純だが、逆を言えば証言の矛盾とピルケース内側の指紋に気づいていなければ完全に事故死と判断されただろう。サプリメントはあとでこっそり一夫さんの荷物に忍ばせ、本人が最近飲みだしたと思わせれば何の矛盾ないしな。」忠司は冷静に解説していく。そこに雅樹が少し疑問をぶつける。
「でも司法解剖って遺族の同意が必要でしたよね?奥さんは一夫さんのこと嫌いだったでしょうに、そこは同意したんですか?」
「あぁ…むしろ奥さん本人から申し出たそうだ。社員に説明するために、社長夫人として知っておきたいと。そうそう、犯人の名前が公表されなかったことについて言ってなかったな。奥さんが身内での殺人があったなんて会社名に傷がつき、社員たちの生活を守っていけなくなるからやめてくれと言い出したんだ。公表では旦那さんが空港でピルケースを落としたはずみで中の薬を紛失してしまっていたが、気づかず飛行機に搭乗してしまって発作が起きて事故死…こういうシナリオでメディアは報道していたはずだよ。」のり子がそうそれよ、とうなずく。
「思い出したわ、それで確か奥さんが女社長として今も活躍されているのよね?もともとあいさつ回りやお中元などの管理は奥さんがやられていたから、周囲の反対も特になかったって。」ここで空腹が限界を迎えたのか、雅樹がのり子に早く昼飯昼飯!とせかす。
「分かってるわ、アタシのおごりで良いわよ。じゃあ二人ともアタシのスマホで注文してね、出前注文でもポイント入るから少しでも取り返さないとね。」
負けてもそこはしっかりしているのり子であった。
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