8章 負けられない戦い-菅野節子の証言
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
あの人の浮気なんて、今まで何回あったことでしょう。結婚して40年以上、もう慣れでしょうか。初めの頃は土下座して許してくれと頼むあの人が哀れで許し、その後息子の信哉が産まれ落ち着いてくれるかしらと期待してみましたが、ダメでした。それどころかあの人は会社が軌道に乗ると、信哉の子育てを私の役目だと押し付けてさらによその女と遊ぶようになりました。私は腸が煮える思いでしたが信哉のため、私は家と信哉のことだけをしようと決心しました。
人間期待するから裏切られたとガッカリする、まさにその通りだと思います。私はあの人が浮気しているのが分かっても、この人はそういう人なんだ。生活費さえ入れてくれればいい…そう思い何も言いませんでした。何も言わない私に余計腹が立ったのでしょうね、よそでの女遊びが収まることはありませんでした。
ただ、小さい会社とはいえ私も社長夫人なわけですから、ただ家におとなしくしているわけにはいきません。年賀状や暑中見舞い、あの人が客先の人を連れて帰ってくればおもてなしも全力でいたしました。いつか離婚することになったとき、あの人にあーやっぱり別れなければよかったなと。世間の人たちからあんないい奥さんを傷つけてひどい人だと、そう評価されればいいんだと思っていました。
ええ、あの人の旅行の荷物は私と家政婦の坂本さんでやりましたよ。坂本さんが旅行の支度とはいえタンスやクローゼットを勝手に開けるのは心苦しいとおっしゃったので。支度した後のキャリーケースは坂本さんが写真を撮ってそれをあの人に送信したあと、あの人の書斎に置いておきました。
当日の朝は、私が5時30分頃に起きて朝食を作りました。坂本さんが年末年始はお休みしていたものですから、といってもおせちの残りとお餅を何個か煮るだけでしたけど。主人はいつも決まって6時に起きて、庭でラジオ体操をするんです。健康の秘訣は朝一の運動と言って。その後は自分の書斎で新聞を読んだりパソコンで仕事したり、洗顔などを済ませ7時前に食卓に着いたと思います。それまで私は台所にいたり、居間でニュースを見たりしていました。そして食卓に現れた時に、心臓病のお薬を忘れないでねと食事が終わった7時30頃でしょうか、声をかけました。いつもビジネスバッグに入れっぱなしのはずですから、忘れられたら旅行どころではなくなってしまいますからね。私が触ると怒るんですよ、毒でも入れる気かと。そしてみんなの朝ご飯が済んだ後に片づけをして8時ちょうど、出発しました。
飛行機では驚きました、胸を押さえてずっと苦しそうにしていたんですから。お医者様からもらったお薬を飲んだはずなのに。気圧のせいかしら…と思っていたらそのままぐったり。私は天罰が下ったんじゃないかと思いました。悪いことをすれば、必ず罰があたるもんです。
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