1章 アパレル女性 絞殺事件-6 伊達幹久
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
「では次は隣人の伊達幹久だ。昨日言ったように、土木関係の仕事仲間を月に2度ほど呼び、自宅で飲み会をするらしくやよいからはうるさいとクレームが来ていた。それは管理会社にも確認済みだ。」
忠司が口を挟む。
「それを聞いてから不思議でした、伊達の部屋は202号室。下の部屋やもう一つ隣の203号室からはクレーム来なかったんですか?」
「アタシも思ったわ、やよいさんだけがクレームしていたの?」
日之出警部が二人の質問に答える。
「下の102号室の住人は基本的に夜仕事をしているらしく、上の階の伊達が飲み会している時間は家にいないから無関係だったようだ。そして203号室の梶原さんは賑やかでいいなーくらいにしか思っていなかったらしい。自分も小型犬を飼っていて鳴き声などで迷惑をかけているだろうからお互い様だと。よって、管理会社へのクレームはもっぱらやよいさんからだけだったようだ。」
雅樹は昨日もらった資料を確認しながら口を開く。
「そういえばやよいさんは、伊達さんに直接クレームを言っているのも目撃されているんですよね?」
「そうだ、飲み会は職場の仲間が集まりやすいのが伊達の部屋だからとのことだ。で、散々クレームを付けられているからテレビもゲームも必ずヘッドホンを使うそうだ。外見はスキンヘッドでコワモテだがインドア派らしく、事件発生時はヘッドホンを付けオンラインゲームに夢中になっていたそうだ。捜査員も、インターホンを2、3度鳴らしてようやく反応してくれたと言っていたよ。」
のり子はそれでも納得いかないという風だ。
「飲み屋にでも行けばいいのに迷惑よね、やよいさんがクレームをつけたい気持ちも分かるわ。」
警部はそれに対しては少々言いにくそうだ。
「まぁ収入面の関係もあるんだろう、猛暑の中仕事させられて飲まなきゃやってられんとも言っていたな。だからと言って隣人に迷惑をかけて良いわけではないが、ただ…」
ただ?お茶を濁すような警部の雰囲気を感じ取った雅樹が、促すようにオウム返しする。
「いや伊達がやよいさんにクレーム付けられているのを、その飲み仲間は知っていてな。つい最近も飲みながら『下らねぇクレームつけやがって、調子に乗ってると殺すぞ!』などと酔った勢いで201号室との壁越しに叫ぶこともあったようだ。やよいさんはそれで身の危険を感じると同僚に相談していたらしい。伊達は酔った勢いで飲み仲間が言っていただけですから、と苦笑いしていたがな。」
雅樹はどこか同情するように言う。
「酒癖悪い飲み仲間は勘弁してほしいですよね、何もしてないのにこっちまで同類に見られちゃうんですから。そういう奴に限って飲み会情報をかぎつけるのだけは鋭いし、誘わないと不機嫌になるし」
「雅樹の愚痴はその辺にしておいて、警部さん次を。」
忠司が促した。
22/9/14 読みやすいよう改行を増やしました。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
いつも閲覧ありがとうございます。感想・評価・指摘などありましたらよろしくお願いいたします。