7章 難しいお年頃-8
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
2022/10/23 0:20 西城宅
日付が変わって少しした頃、正俊が帰ってきた。宣言していたとおり飲んできたようで、けっこう酔っぱらっているようだ。ワイシャツ姿になった正俊にのり子がお茶漬けを出すと、梅干しの効果もあって少しはさっぱりした様子だ。しきりに今日の愛里と真由の様子を尋ねる正俊に、のり子が何の心配もなかったですよと答えると、ホッと息をついた。
「あの子は真里が亡くなって俺より寂しかったはずなんです、母親なんだから。でも真由が産まれたばかりだったのと、葬式や中学校生活で泣く暇もなかったんじゃないかと思うと可哀そうでね。」
水を飲みながら、こぼすように正俊が口を開いた。黙って聞いているのり子。
「家事もお腹に赤ん坊がいた真里を気遣って、まだ中学校に上がる前だったのに率先してやってくれていたしあの子には頭が上がりません。俺にできることなら、あの二人になんだってしてあげたいと思っている。」
そう言う正俊の言葉に嘘はなさそうだ。
「余計なお世話かもしれないけど、お二人はなんだかお互い気を使ってるっていうか余計な壁があるように見えますね。もうちょっとお互いに歩み寄れたらいいんでしょうけどね。」
のり子が言うと、正俊が思いきったようにつぶやく。
「実は、何でも屋さんにホームキーパーを依頼したのはもう一つ目的があったんです。真里は出産の1週間ほど前から入院していたんですがどうやら病室で、自分のスマホでいろいろ動画を撮っていたみたいだと当時の看護師さんから教えてもらいました。そのことを一度真里に尋ねた時に、もしもってことがあったら私のスマホを見てほしいと頼まれました。当然真里が亡くなった後、俺は中を見ようとしましたが鍵がかかっていて…。」
のり子は察してそこからの言葉を引き継ぐ。
「なるほど、それで私たちにそのパスワードを解いてほしいってわけね。でもそういうのって遺族だからって言えば契約会社がなんとかしてくれたりしないの?」
正俊も当初はそう考えたようである、しかしそれを愛里が止めたというのだ。
「ダメだよ、そのパスワードもお母さんが残したものだからと言われて。しかし私にはどうも分からなくて…すみません。当初の依頼には含まれていないことで、無視していただいても結構です。」
そういう正俊だが、のり子は冗談じゃないと返した。
「分かりました、ここまで来たら引き受けましょう。でも今日は遅いから、もう寝ましょう。私は愛里ちゃんの部屋に布団敷いてもらってるから、そっちにお邪魔しますね。ちなみに1から順番に総当たりっていうのは…。」
のり子が提案するが、正俊は首を振る。
「そのスマホの設定で、5分以内に3回もしくは1日に5回間違えると24時間入力がロックされるようなんです。8桁のようで、生前の真里は誕生日を設定していたはずなのですが…。」
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後に改行)
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