21章 来客 -33
オレはリビングにいる警部たちに聞こえないよう、忠司さんに耳打ちする。
「誰が犯人か分かりました?」
「うん、今回のケースはトリックとも言えないお粗末さだな。それより問題は動機の方だ。」
「え?何言ってるんですか忠司さん、動機の方こそハッキリしているじゃないですか。」
オレ達は顔を見合わせた。
一方その頃、事務所。
「いいなぁ雅樹先輩たち、私も殺人事件の現場に行ってみたいなぁ。ドラマみたいに警察の刑事や鑑識さんが歩き回ったり写真撮りまくっているんでしょうか?」
私の問に、自分のスマホで何か入力しながら答えるのり子先輩。
「ああいうのは視聴者に分かりやすいようにある程度は誇張しているものよ。実際は一つの事件へ一斉に押しかけるほど警察もヒマじゃないと思うわ。それに今回の事件は事件が発生してから数日経過しているでしょ?警察関係者数人で重要参考人の人たち…つまりバンドメンバーに事情聴取して、証言を元に現場検証してって感じね。絵面を見たら結構地味だしシュールなものよ。警察が見ている前で事件当日のその時間、私はこんなことをしていましたとテレビの再現VTRみたいに事細かに、事件当日の自分になりきって演技したりするのよ。」
実は雅樹先輩がスマホで彼らの会話を文字起こしして私たちに共有してくれているので、私たちも事務所にいながら現場の事情聴取の様子を知ることができる。
「のり子さんは誰だと思います?犯人。」
「そうねぇ、佐藤さんって女の人は違うと思うわ。」
「それはなぜですか?」
「今回は毒殺でしょ?佐藤さんが良元さんを殺したとなったら、当然痴情のもつれが原因ということになるわね?でもね、痴情のもつれってそのときの感情が爆発しての突発的な犯行が多いの。だけど今回は毒殺、つまり犯人は事前に毒を準備して、いつどんな方法で被害者に飲ませ自分は疑いを回避するのかを綿密に計算した上で犯行を行っているのよ。ま、日頃の彼氏の態度にイライラして毒を準備したって可能性もなくはないけど…それなら彼女、自分でコーヒーを持っていったりしないわ。彼女が毒を仕込んだなら、他の人間にコーヒーを届けさせたはず。だって、どう考えても毒入りドリンクを手渡した人が一番疑われるんだからね。」
なんか、先輩たちってこういう事件に慣れているのだろうか。のり子先輩の的確な分析を聞きながら尊敬の念が浮かぶ反面、ちょっと疎外感を感じる。なにせ私にはちんぷんかんぷんなのだから。
「それにアタシ達が心配するまでもないわね、どうやら男どもは真相にたどり着いたみたいだから。」
「あの、私には何がなんだか…。」
「そうね、じゃあヒントをあげる。悪いことはするものじゃないわ、必ず誰かにバレるから。」
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




