21章 来客 -30 栗原の証言・2
今のところ、彼の証言におかしなところはなさそうか?
「ではあなたは被害者となんらかのトラブルはありましたか?」
「ねーよ。俺は森屋に誘われてバンドに参加したから良元とは初対面だったし、佐藤が俺の元カノだから気まずくて必要以上のおしゃべりはしなかったよ。楽曲をつくっているのは良元だから、さすがに曲のことを聞くときは会話したけど、それ以外は特に接点ナシ。お友達作って仲良しこよしするためにバンド入ったわけじゃねーしな。」
「そうなるとあなたに動機があるとすれば、佐藤さん絡みとなるわけですが彼女とはなぜ別れたんですか?」
「どうせ佐藤から証言を聞いただろ、と言っても俺がフラれたようなモンだけどな。」
あれ?佐藤さんは栗原さんの方から別れたと説明していたような?
「申し訳ありませんが、佐藤さんの証言とは少し食い違いがあるようですね。」
「あぁ、あれだろ?俺の方から別れを切り出したって証言したんだろ。それは正しいよ、ただね警部さん。俺はフラれた『ようなもん』って言ったんだ。つまり俺が別れを切り出す前から、俺と佐藤の関係は終わっていたんだよ。」
「どういうことですか?」
「俺と佐藤はな、友達関係からスタートしたんだよ。SNSで知り合って、住んでいるところが近いからって会うようになって、音楽の話で盛り上がって。それからしばらく…半年以上してからかな。まぁあれっだ、付き合うことになったんだが、友達期間がどうにも長かったみたいでな。アイツが俺のことを男として意識していなかったんだよ。オトナの男女なら当たり前にする夜の関係も、俺たちには一切なかった。だから付き合って2年に差し掛かろうとするとき、一発男を見せようと思って誘おうとしたんだよ、そういう行為にな。俺の自宅に呼んで、ラブロマンスの映画を見ていい雰囲気に持ち込んで、今だ!と抱きしめようとしたとき…佐藤の方から言ってきたんだ、私たちってカップルっていうより男女の親友みたいだよねって。」
あぁ…それはもう、ナシっていうサインだよなぁ。オレは栗原さんの話を聞きながら胸が苦しくなる、なにせオレ自身にもそういう経験があるのだから。警部もなんと返していいか分からないらしい。
「ま、そういうワケでよ。男として見られていないならカップルである必要もないって思って、別れを切り出したっつーわけ。だから良元と二股されていたとかそういう邪推してるんだったら全然ちげーからな。」
「では最後に、狭霧さんと森屋さんについて教えて下さい。」
「森屋についてはさっき言った通りだ、アイツは親父のコネで金も人脈もあるし、アイツ自身も投資家やってる。狭霧が良元に借金しているのもバンドメンバー全員が知っていることだ。ただ良元の楽器指導は厳しかったがさすが音大出身なだけあって言っていることは正しかったし、狭霧自身も自分にブランクがあるのは理解していたはずだから、そんなに恨んでいたようには見えなかったけどな。ま、俺は当事者じゃねーからあくまで見た感じだけど。」
「よく分かりました、では最後に森屋さんを呼んできてください。」
いつも閲覧・評価ありがとうございます。感想・誤字の指摘などありましたらよろしくお願いいたします。
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。