21章 来客 -20
翌日。
「もう!なんでオレと忠司さんのペアなんですか!のり子さんか美羽ちゃんが良かったな~。」
「仕方ないだろ、新人は今回の件をよく分かっていないしそもそも対人関係にまだまだ問題あり。川島田はペットシッターの面倒見るのに一日三回、あの左官屋の兄ちゃんのマンションに通わなきゃならないんだから。それに俺は一応警部から情報もらった張本人だからな。」
そういえば、のり子さんは愛しの彼(本人は未だ否定しているけど)が飼っている猫の面倒を見るとか言ってたな。それにしてものり子さんが熱を上げるとは、カズヤさん恐るべし。
「ホラ余計なことを考えている場合じゃないぞ、着いた。」
そこは八王子市の住宅街の一角、普通の2階建てという感じだ。全体的に四角い外観で外壁は白、平らな屋根だけはブラウン色。玄関は東側で、1階も2階も窓はすべて南向き。庭は道路と水平に停車すれば乗用車が一台停まるくらいのスペースはある。なんの変哲もない普通の一戸建てだ。
しかし実際は立入禁止のテープがそこらに貼られ、見張りの警官も数人いる。オレ達が警部の名前を出すと中に入れてくれた。今回は一応オレ達も音楽関係者で事件に関係あるかもしれないから呼ばれた、ということになっているらしい。オレ全然音楽のことなんか知らないけど。
2畳ほどの玄関には収まりきれないほどの靴が置かれている。女性物のパンプスが1足以外は男物のスニーカーと革靴。警察関係者も含めそれだけの人数が今この家に集まっているのだろう。
しかしオレ達の到着とともに10数人ほどが、入れ替わるようにぞろぞろと玄関から外へ出ていった。
「現場検証が一段落ついたかな。」
そう言う忠司さんとともに玄関を上がり、リビングへ行くと容疑者たちがちょうど集合したところのようだ。
忠司さんが警部に挨拶すると、オレ達のことを紹介してくれる。
「それで、やはり毒は私たちの中の誰かが彼の飲み物へ混入させたのでしょうか?」
一言で言うなら清純派アイドルのような女性、この人がキーボード担当の佐藤明日香さんというこのバンド紅一点だ。ロングの艶のある黒髪に白いワンピース、クリッとした目に厚ぼったい唇という思わず目を引かれるルックスの持ち主だ。きっとモテるだろう。そんな彼女は1人用ソファに腰掛け、不安なのか祈るように手を組んでいる。
「皆さん僕を疑ってるみたいですけど、絶対僕じゃないですから!」
そう言って窓際で息巻いているのは我らが依頼人でギター担当の狭霧さん。美羽ちゃんには彼は犯人ではないと断言したけど、正直まだ疑いの余地は残っている。
「で、全員集めてなにすんだ?わざわざ仕事休んだんだぜ?」
この乱暴な話し方をしている人が栗原悠真さん、ドラム担当らしい。作業用ズボンにタンクトップという、いかにも力仕事を生業にしていますという格好だ。タンクトップから覗く腕は太く、顔とともにかなり日焼けしている。しかしゴツい体に反して髪はミディアムショートくらいの長さに垂れ目の二重と優しそうな顔立ちで、口の悪さとのギャップを感じる。そんな彼は狭霧さんと同じ窓辺で、だが彼とは距離を開けて腕を組み壁によりかかっている。
「まぁまぁ、刑事さん達も大変だろうからおとなしくしていようよ。」
落ち着いた口調で諌めるのは森屋晃さん、ボーカル担当。ジャケットにスラックスという正装に近い格好をしている。髪は短髪で釣り上がり気味の細い眉毛に平行細目と、ちょっと厳ついイメージを持ちそうになるが話し方的にこの人が一番落ち着いている。警部によると一応バンドのリーダーらしい。どこから持ってきたのか佐藤さんのソファーの横にパイプ椅子を置きそこに座っていた。
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