21章 来客 -19 事件の詳細・5
ある程度情報が集まったようで、先輩たちはそれぞれ自分の手帳やスマホとにらめっこしている。一方私には何がなんだかさっぱり、雅樹先輩の言葉を信じるなら狭霧さんは容疑者から除外してもいいってこと?
「それで狭霧さん、先に断っておきますがアタシ達はボランティアじゃありません。依頼料をいただくことになりますがよろしいですか?」
「もちろんです。刑務所に入るくらいならいくら払ってでも無実を証明してもらいたい!とにかく僕は殺していない!」
狭霧さんは正式に依頼書を記入して帰っていった。彼によれば明日また容疑者と関係者を集めて現場検証をするらしい。
「ということは容疑者は全員、警察の監視下にある。追い詰めるためにはアレが必要だが、果たして一体誰が…。」
アレって何だろう?
「ん?なんだ美羽ちゃん、そんなの決まってるじゃないか。証拠品だよ。警察が犯人を逮捕したり法廷で犯人を裁いたりするのには原則、物的な証拠が必要なんだよ。状況証拠や自供だけで裁判が進む場合もあるけれど、それは例外中の例外だと思っていい。」
「えっでも事件が起きてからまた明日関係者が集まるまでに数日空いていますよね?その間に証拠品なんて捨てられちゃうんじゃないですか?だってそれ持ってたら捕まっちゃうんですよ?」
私の当然な質問に肩を竦めながら、コーヒーを淹れようとする雅樹先輩。しかしキッチンに現れたのり子先輩がそれを静止し、彼女が淹れ始める。
「それは無理だね。今回の事件は一軒家の中で起きた毒殺、つまり外部犯の可能性は限りなく低い。外部犯なら毒なんて遠回しな方法を使わずに、刃物で刺すなり首を締めるなりもっと手っ取り早い方法を使うからね。そしてそんなことは警察だって百も承知、つまり事件直後から関係者達は警察の監視下にあるってわけさ。」
「あ…そっか!そんなときに怪しいものを捨てたりしたら!」
「そう、それでは自分が犯人だと言っているようなもの。せっかくいつ誰が毒を仕込んだのか分からないよううまく殺したのに、本末転倒になっちゃうだろ?きっと犯人は分かっているんだ、警察が家宅捜索をしてこないってことを。だから証拠品を捨てずにあえて自分で持っている。問題はそれが誰なのかってこと…。」
私はさきほど接客するときに使っていたカップを洗いながら聞き返す。隣ではのり子先輩がおやつの準備をしている、彼女が冷蔵庫から出したのはみたらし団子だ。
「家宅捜索っていうのは、基本的に容疑が固まらないと令状が出ないんだ。他人のプライバシーを踏み荒らす行為だからね、警察もおいそれとそんな野蛮な真似はできないってわけさ。しかも強制捜査して何も証拠が出なかったなんてことになったら最悪、逆に訴えられてしまう。だからしっかりとした容疑が固まらないと家に押し入ることはしない。犯人はこのことを知っている可能性が高い、つまり今の段階では誰の家をどんな目的で捜索したらいいか分からない、という警察を煙に巻いた状態ってことだね。」
刑事ドラマではよく見るシーンだけど、現実はそう上手くいかないらしい。
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