21章 来客 -11
「で、何よマスターさっきから、チラチラとアタシ達の方を見て。」
一通りカズヤさんの情報収集をして満足したのか、のり子さんの次のターゲットはマスターへ。やっぱり気づいてたんだ。
「あ、いえ。姪っ子はちゃんとやれてるかなと思いまして。プライベートな時間にお仕事の話を持ちかけてしまい申し訳ございません。」
カウンター越しにオレ達の正面に立つマスター。
「いいわよ、気になるわよね。でも美羽ちゃんなら大丈夫、社会人に成り立てで接客の心得や仕事のミスはまだ多いけど、みんな最初はあんなものだし。むしろ極度の人見知りっていうからどれだけコミュニケーション下手な子が来るんだろうって構えていたけど、意外とおしゃべりもするし。ただ初対面のお客さまは全然駄目みたいね。自分から進んで接客しに行こうとしないから…挨拶はきちんとするんだけどね。」
「それはどうもご迷惑をかけておりまして、なんと言ったらいいか。」
深々と頭を下げるマスター。別にこの人が悪いわけではないけど、それだけ姪っ子がかわいいということだろう。気持ちは分からなくもない。
「いいわよ別に。それよりなんでこのバーを開こうと思ったの?」
「元々興味はあったんですよ。雰囲気が良くて、お客さんが一人でも気楽にふらっと来て楽しめる、そんなお店を自分の手で経営できたらいいなと。それで大学の頃から自分のお店を持ちたいって気持ちを持っていたので、時間があるときは図書館や近くのバーへ直接話しを聞きに行ったりしていました。大学なら例えば朝10時の講義を終えて、次の講義が午後3時なら4時間程度はヒマな時間があるでしょう?その間ずーっと図書館の本やパソコンを使って酒の種類やバーテンダーについて調べまくったりしていました。」
「じゃあちゃんと勉強していた結果が実ったってわけね、素敵じゃない。マスターって結構イケてるから正直お似合いよ。」
「いえいえそんな、恐縮です。」
さっきの褒め言葉はのり子さんの本心だろう、なにせ彼女は当初このマスターに会うためにバーへ行こうと騒いでいたのだから。
「そういえばこのお店って、泥酔して喚き散らしたり喧嘩したりするお客さんいないわね。アタシ何回か来たけど見たことないわ。」
「そうですね、来店していただくお客様にも恵まれて幸せな限りです。ちょっと失礼。」
マスターのスマホが着信を知らせると、彼はバイトの子を残してスマホを片手に店の裏へ消えていった。ちょうどいいので話を戻してみる。
「のり子さんこそ、カズヤさんの情報ないんですか?」
「だからアンタが仲良くなってどうすんのよ。」
「いやオレは普通に友達としても仲良くなりたいんですよ!あぁいうイイ男と友達関係でいたら、オレも男としてのレベルが上がる気がするんです。」
「とかなんとか言って、本当はカズヤくんから新たに合コンのクチ紹介してもらおうとか思ってるんでしょう?見え見えよ。」
ク…さすがのり子さん、自分の興味関心があるものには妙に鋭いところがあるんだよな。
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