21章 来客 -3
のり子先輩はカズヤさんをソファー席へ案内し、既にテーブルに用意していた書類を使い早速注意事項などの説明を始めた。
パソコン席は所長が占領しているので、私と雅樹先輩は更衣室の方へ追いやられた。しかしここからでも来客用ソファー席の話し声は聞こえてくるし、壁越しに覗き込める距離ではある。
「あのカズヤって人、相当なイケメンだね。美羽ちゃん合コンでちょっと話したんでしょ?本当に彼女いないの?」
当然のごとく私に話しかけてくる雅樹先輩。
「いないらしいですけど。心配ならのり子先輩との話し合いが終わったあともう一回話しかけて確認してみましょうか?」
「それがいいよ!長身・ガタイ良し・顔は男前・性格も良さそう…そんな男、普通は女性の方から食いつくというか放っておかないだろう?」
私と雅樹先輩はどちらともなく例の2人の様子を覗き込む。彼女はすごいなと思った。のり子先輩にとってカズヤさんは意中の相手だろうに、顔色一つ変えず応対している。私なら絶対しどろもどろになってしまう気がする。
「しかし合コンも捨てたもんじゃないね。」
「どうしたんですか?急に。」
覗くのをやめてあぐらをかいて座る雅樹先輩が急に悟ったようなことを言い出して驚く私。
「だってのり子さんがあんなイイ人と知り合えたんだからさ、ダメ元でもなんでも行くべきだなって。のり子さんから聞いているかもしれないけど、オレ結構合コンとか婚活パーティ行っててさ。でも良い人と知り合えなくて、もういいかなってちょっと諦めムードだったんだよね。」
雅樹先輩ですら苦戦するんだ、と私はまたも驚いた。彼は所長やカズヤさんのような眉目秀麗というタイプではないが、犬顔で愛嬌がある。性格も明るく人懐っこいのでモテそうなものだけど。
「雅樹先輩でも恋人作りって苦労するんですね。話し上手でコミュニケーションの上手いタイプだから、私勝手にモテるイメージを持ってました。」
「いやいや、そんなことないんだなこれが。オレの場合はせっかちというか、勝負を早まって空回りするタイプっていうか。女の人ってじっくり距離を詰めたい人が多いだろ?オレさ、そういうの駄目なんだよねじれったくなっちゃって。ちょっと前にものり子さんにアンタはガツガツしすぎよって言われたし。結局今の時代って草食系男子みたいな、控えめな男がモテるのかなぁ~?」
それは人によるのではないだろうか?少なくとも私のような引っ込み思案タイプの女に対して、男性まで控えめでは何も進展しない気がするけどな。
そんな話をしている内にのり子先輩たちの話が終わったようだ。私と雅樹先輩はカズヤさんの元へ突撃する。
「あれ?」
のり子先輩がバッグを持ってもう帰り支度をしている。
「のり子さん、帰るんですか?」
「違うわよ。彼の家に行くの、猫ちゃんのご飯の場所やトイレの確認とか事前に見ておきたいからね。それに猫ちゃんにもある程度慣れておいたいいでしょ?明日いきなり知らない女が家に上がり込んでご飯やトイレをいじりだしたらストレスでしょうからね。アタシはペットシッター系の依頼を受けるときは可能な限り前もって見に行くようにしているのよ。」
要するに下見みたいなものか。
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