21章 来客 -2
「それから美羽ちゃん。さっきの、失礼だからやめなさい。」
恐らく私がカズヤさんの汗臭さに顔をしかめたことに対して言っているのだろう、なんとなく私も無礼なことをしてしまったなと思っていたところだ。
「す、すみません、思わず…。」
「前にも言ったけど、彼は左官屋さんよ。汗臭いってことは、それだけ仕事を頑張っている裏返しってことなのよ。だって頑張っていない人は汗臭くなりようがないからね。そしてアタシ達はあくまで人様から依頼とお金をもらって生活しているのよ、それを忘れちゃ駄目。」
いつの間にか戻ってきていた所長とチラリと目があったが、彼は何も言わなかった。気まずい雰囲気が漂う事務所の空気を破るように、ガチャ!と入口のドアが開く。
「ただいま~ッス。いやーまだまだ外は暑いですね、コンビニ行くだけなのに汗かいちゃいましたよ。はいこれ、言われた通り買ってきましたよ白いTシャツとパンツ。」
「詳しく言わなくてよろしい。そろそろシャワー浴び終わる頃だろうから、そのまま持っていってあげて。あっタオルも一緒にね。」
ほいほーい、と返事をしタオルを取って買い物袋とともに奥へ行く雅樹先輩。私は彼の飄々とした立ち回りがちょっと羨ましく思えた。
「そうだ美羽ちゃん、さっきの西野さんの件のまとめと報告の入力お願いしていいかしら。アタシこのままカズヤくんの家にペットシッターへ行くと思うから。」
「はい。」
シャワー室の方から雅樹先輩がとぼとぼと戻って来る。元気がない。
「どうしたんですか?」
「ま…負けた。」
「何を言ってるの、アンタ?」
所長だけは意味が分かっているのか、ちょっと口角が上がっている。
「身長はもちろん、顔も、体格も、男としても…負けた。」
???何のこと?
「…美羽ちゃん、アホにかまっちゃ駄目よ。それよりさっき頼んだやつ、やっちゃって。」
続いてカズヤさんが出てきた。
「あ、あのすみません。私さっき、失礼なことを。」
「いいよいいよ、そもそも自分が汗臭い体で来たのが悪いんだから。ってキミ、あれ?前に会ったことあるよね?」
改めて私を見て思い出したらしい、目をまん丸くしている。
「はい、前にお会いした合コンでのり子先輩の隣に座っていました。」
「あーやっぱり、そうだよね?合コンのときと雰囲気違うから分からなかったよ。」
あのときはのり子先輩にバッチリメイクまでしてもらっていたからね。対して今の私はほぼすっぴん、そりゃ別人だと思うよね。
「それよりカズヤくん、こちらのソファーへ。正式に猫ちゃん達の面倒のこと、アタシが依頼として受けますわ。」
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