20章 ウワサ話にご用心 -17
のり子先輩がそう告げると、賢三さんは一瞬きょとんとした顔をした後、笑い始める。
「ヒヒヒヒッ、あんた何言ってるんだ?ママと犯人は何の面識も接点もないって警察がすでに調査して発表していたじゃないか!一緒に住んでいる僕が承認になってやるよ、ママはあんなやつのこと絶対知らなかったね。」
鼻息荒く前かがみ気味の姿勢になってまくし立てる賢三さんに対し、あくまで冷静にピンと背筋を伸ばして座るのり子先輩の態度が対照的だ。
「賢三さん、あなた早とちりしやすいタイプですね。アタシは何も、お母さんが直接現金の隠し場所を犯人に教えたとは言ってませんよ。」
「え?」
「被害者…あなたのお母さんである節子さんは、かなり見栄っ張りだったようですね。ご近所の人達が何人も証言しています、お茶会や立ち話のときにいつも自慢話をしてみんなが羨ましそうにすると満足気にしていたって。それはあなたにも心当たりがあるのでは?」
「う…。で、でも!金持ちが金を持っていることを自慢して何が悪い!」
と言って開き直った依頼人。どうやら図星のようだ。
「やっぱり…。つまりこういうことですよ。」
1.被害者の西野節子さんは自分の家が金持ちであることはもちろん、地下室があることやそこに貴金属を溜め込んでいることを自慢していた。
2.それを聞いたご近所の人達がゴミ捨てなどで顔を合わせる際、世間話ついでに節子さんがまたこんな自慢話をしていたのよと話す。
3.犯人が仕事で現場付近に立ち寄った際、その話を耳にしてしまう。
4.そして後に仕事をクビになり金に困った犯人は、西野さん宅の地下に忍び込んで金を盗み出そうと画策した。
「いくらあの辺りが高級住宅街とはいえ手当たり次第に家を漁るのは非効率ですからね、しかも今の時代みんなスマートフォンを持ち歩いている。何かあればすぐ写真や動画を撮られて警察へ駆け込まれてしまいます。その点、最初からあなたの家の地下室に現金や貴重品があると分かっていれば、物色する手間もそれによって事前に警察に捕まるリスクも無くすことができる。だから犯人はあなたの家が留守になるタイミングをピンポイントで狙い、窓を割ったら真っ先に地下室へ向かったんです。結論を言うと節子さんの自慢癖が、巡り巡って強盗犯を引き寄せてしまったということです。こう考えればすべて辻褄が合いますから。」
「そ、そんな…。」
「いいですか賢三さん、お金というものは時に善人を悪人に変えてしまうほどの魔力を秘めています。ちょっと周りの人よりお金に余裕があるからとハナにかけていると、あなたもお母さんのようになってしまうかもしれませんよ。」
その後すっかりおとなしくなった依頼人は、手続きを済ませ肩を落として帰っていった。
「あぁそうか。私、雅樹先輩の言っていたことがやっと分かりました。確かに自分が盗みをしようとするなら、ターゲットの家のどこに金が隠してあるのかを先に知りたいですもんね。やみくもに探すのも時間がかかるわけですし。」
「だろ?犯人は地下室に金が隠してあるとウワサを聞いて知っていたからこそ、あの家に狙いをつけたってことさ。でもさすがのり子さん、他の部屋が荒らされたという情報がないだけでそこに気づくなんて。」
のり子先輩は依頼人と自分のコーヒーカップを片付けながら、表情一つ変えずこう言った。
「女のカンよ。」
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