20章 ウワサ話にご用心 -8
「そこなのよねぇ、アタシもそこが引っかかるのよ。それに何日もあなたの家を狙って待ち構えるくらいなら、もっと襲いやすい家は他にもあるじゃない?例えば一人暮らしの家なんて、住んでいる本人さえ出かければほぼ確実に留守よ?どうして3人家族の西野さん宅が狙われたのかしらね。でも警察の調べでは、あなたのお母さんと犯人には何の関係もなかったのよね?もしかして賢三さんやお父さんの方に何か恨みでもあったのかしら。」
偶然…ということはないだろう。犯人は虎視眈々と、彼の家が無人になるその瞬間を狙っていたのだから。
「僕はあんなやつ知らないし、パパだって知らないと思うよ。それとも警察の調べが甘いじゃないのかな?そういえば地下室以外とくに荒らされた形跡がなかったらしいけど、実は他の物も盗まれてたりして。」
しかしそれを聞いたのり子先輩は即座に首を振る。
「それはないわ。日本の警察って人間関係に関しては、調べすぎるくらい調査するのよ。職場はもちろん、ご近所関係や過去のバイト先、果ては何年も前に卒業した学校まで捜査対象にすることもあるの。だから警察の発表はまず信用していいと思うわ、もちろん捜査上の都合でたまに秘匿にしていることもあるでしょうけどね。盗まれた物についてはきっとお父さんの方が警察へ話しているでしょうね。」
「そうかい。まぁいいや、とにかく犯行動機を探ってくれよ。」
私はずっと不思議に思っていた、それを調べて何になるんだろう?それはのり子先輩も気になっていたようで、彼女の方から質問してくれた。
「ねぇ賢三さん、動機を調べてどうする気なんですか?犯人はすでに捕まって、強盗殺人などの容疑も固まっています。あとは裁判の判決を待つのみですよ?」
「僕は転んでもタダじゃ起きないタイプなんだよ。これを漫画かノンフィクション小説にして世間に発表するんだ。あわよくば作家デビューも狙えるし、そうしたらパパがうるさく働けっていうこともなくなるだろ?ほらそういう作品を作る上で、無差別通り魔事件でもない限り絶対に"犯人の動機"という点は欠かせないじゃないか。だからこうしてわざわざ依頼しに来たんだよね。」
なるほど、無駄に甘やかされたボンボン息子なだけではないらしい。意外と抜け目のないタイプなのかもしれない。
「かしこまりました、ではこちらに今日の日付とフルネームでサインを。またこちらの紙に注意事項等が書いてありますので、持ち帰ってかまいませんのでよく読んでおいてください。」
ほーい、と間の抜けた返事をしつつサラサラとサインをした賢三は、素早く資料を受け取るとバッグに詰め込みそそくさと帰っていった。
「実の母親が殺されたっていうのに、金儲けのことしか考えていないなんて。呆れるわね。」
「ある意味、お金持ち一家の血がしっかり流れてるとも言えますけどね。これだけ連日話題になるニュースならたしかに本の売れ行きはそこそこ見込めそうですし。」
のり子先輩はソファーに座り、目を伏せてコーヒーを飲みながら小さく一言付け加えた。
「あの男に文才があれば、だけどね。」
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