20章 ウワサ話にご用心 -7
「べ、別にいいじゃないか!自分の家で何をしていようが、関係ないだろ。」
「関係大アリです!あなたがもし家にいて犯人の侵入に気づけたのなら、あなたが応戦するなりせめて悲鳴を上げるなりしていれば、お母さんは助かったと思いますよ。」
のり子先輩にそう言われ、俯いたまま僕のせいじゃない…僕のせいじゃない…と呟く賢三。さっきまで調子よくのり子先輩をナンパしていたくせに。
「もうわかった、正直に言うよ。僕はいつも朝ご飯を食べたあとちょっと食休みして、10時頃に近くのコンビニに行くんだよ。あの辺は大手コンビニ3社が歩いて5分以内のところに密集しているからね。そのとき行きたい店を決めて、その日のお昼ごはんやおやつを買うためにね。スマホ決済すればお金はママが払っておいてくれるし。」
「毎日その時間に家を出るんですか?」
「そうだよ、だって人間その日の気分で食べたいものが変わるだろ?今日ポテトチップスが食べたくて買い溜めしておいても、明日はクッキーが欲しくなるかもしれない。だから僕は毎日コンビニへ歩いて行くのさ、ダイエットがてらね。」
徒歩5分の距離ではダイエットのダの字にもなっていない気がする。それにどう見ても摂取カロリーの方がオーバーしている体型だけど私は黙っておいた。
「分かりました。どうやらあなたのその習慣がアダになったようですね。」
「どういうことだい?」
「いいですか?犯人は窓を割るという大胆な手法で侵入しているんです。ガラスを割るなんてどんなに工夫しても多少は音が出るでしょう、その理由は一つしかありません。犯人はあなた達家族のことを監視するなどして、家に誰もいないタイミングを狙っていたってことです。留守中ならどんなに大きな音を出しても、中に気付づく人がいませんからね。周辺の家の人も直接窓ガラスを割る瞬間さえ見られなければ、ふつう皿かコップでも割ったんだろうくらいにしか思わないでしょうし。」
「だ、だけど僕は悪くないぞ!僕はただ、いつも通りの時間にコンビニへ行っただけさ!」
わかりやすく狼狽している様子の賢三。言い訳しているというより、自分に言い聞かせているみたい。そんなことをしても、殺されたお母様が蘇ったりはしないのに。
「そう。いつも通りに、ね。犯人はまさにそこを狙っていたのね。恐らく殺人があった数日前からあなたの家のまわりで張り込んでいたはずよ。確かあなたのお父さんは音楽プロデューサーで、そうすると朝早く家を出そうだけど?」
「うん。楽曲の収録やオーディションなんかは歌手やアイドルのスケジュールに合わせなきゃいけないみたいで、朝6時前に出かけることもあるよ。帰りはいつも夜、早くても19時かな。」
「つまり日中は賢三さんさえ出かけてしまえばあとはお母様が一人、そのお母様も出かけてしまえば留守…そんな日が来るのをきっと待ち構えていたのね。そして運悪く、事件当日にその条件が揃ってしまった。お父さんはいつも通り朝早く出勤、賢三さんがコンビニへ行ったタイミングでお母さんも出かける。完全に留守になったタイミングで犯人が侵入…。」
なんとなく事件当日の流れが読めた。事務所に沈黙が訪れたそのとき、賢三さんが口を開いた。
「だけど、なんで僕の家なのさ?さっきも言ったけど、周りには僕の家よりお金持ちであろう芸能人が住むマンションや会社社長の邸宅がいくつでもある。単なる金目当てなら、別に僕の家じゃなくてもいいじゃないか。」
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