20章 ウワサ話にご用心 -4
「あらま、後輩のこといじめてクビになっていたの?じゃあ前言撤回するわ、同情できないわね。自業自得じゃないの。」
彼女の言うことはごもっとも、私も同感だ。しかし犯人は妻子がいると報道されていた、関係ない家族は大迷惑だろう。
元同僚へのインタビューが終わるとニュースは天気予報に切り替わった。お天気キャスターによると今日も快晴で最高気温は35度。暑さ寒さも彼岸までとはよく言うが、本当に秋の彼岸でこの暑さが収まるんだろうか。今日が事務所出勤で本当によかった。
「他のニュース番組や報道記事も調べて情報収集お願いね、アタシはお盆休み中のみんなの諸経費や依頼料なんかの精算をしなくちゃならないから。」
そういうと彼女は分厚いファイルや電卓を持ってソファー席へ着席。あそこが一番テーブルが広くやりやすいのだろう。私は殺人事件の調査を命じられたので指示に従うことにする。
だが小1時間ほどいろんなニュースやサイトを見て回ったがどこも書いてあることはほぼ同じだった。それはそうである、なにせ警察が公開したことを各メディアがこぞって取り上げているだけなのだ。元を辿れば同じ情報に行き着くのは当然である。
各メディアそれぞれ違うご近所さんへインタビューしているようだが、それもだいたい同じような答えが返ってきていた。資産家で音楽プロデューサーの旦那と有名大学を卒業した一人息子がいて羨ましい。被害者の節子さんは自宅を婚活パーティに貸し出すほどおおらかな性格でとてもお上品な立ち振舞い。ご近所のお茶会や婚活パーティに自宅を開放してくれるのでみんな助かっている。
警察も思惑は同じだったようで、当初は怨恨の線で捜査していたようだ。しかし犯人が金品目的だったと自白した上に、被害者と犯人は一切の面識や関係がないことも判明。だからこそ強盗殺人容疑が固まったのである。
「のり子先輩、やっぱりこの事件って私達が手を出す必要ないんじゃないですか?」
一生懸命ファイルをめくり電卓を叩く彼女に声をかけてみる。
「そうでもないわよ?気づいていないみたいね。美羽ちゃんコーヒーお願いしていい?」
私は言われた通りキッチンへ立つ。私は言われたことの意味を考えながら飲み物を用意し、彼女の元へ。ちょうど一段落したのかふぅ、とため息一つして伸びの姿勢をするのり子先輩。ありがとうと言いながらコーヒーを受け取り飲む彼女の対面に座る私。
「それでのり子先輩、私が気づいていないってどういうことですか?」
「ん?そうね、美羽ちゃんの特技って肉声で聞かないと駄目なのよね?」
私は他者が嘘をつくとき、強烈な違和感を覚えるという先天的な特性がある。だがそれは肉声にのみ反応し、テレビやスマホを通した音声では判断できない。
「つまり、誰かが嘘をついていたってことですか?」
彼女は戸惑う私の反応を見て笑っている。
「それはどうかしら。でも日本人って面倒くさいわ、本音と建前を使い分けるからね。それにとある情報がね、アタシは引っかかるものを感じたわ。すぐに答えを教えてあげてもいいんだけどそれじゃ美羽ちゃんのレベルアップにならないから、一体アタシがどの情報のどこに引っかかったのか、考えてみて?」
それだけ言うと彼女はまたファイルとにらめっこを始め、精算作業を再開したのだった。
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




