19章 花火大会と恋の予感 -26
どういうことだろう?私と雅樹先輩は鳩が豆鉄砲を食らったような顔できょとんとしてしまう。そんな私達を見ながらのり子先輩は呆れ顔だ。
「先に行っておくけど、美羽ちゃんは真似しちゃ駄目よ?これはお酒に強いアタシだから可能な方法だからね。アタシがカズヤくんの家に行ったのは、お酒の勢いで女を襲うような男かどうかを見極めるため。もしそんな男なら股間でも蹴り上げて、二度と合わないって決めていたから。でもカズヤくんは全然そんな素振りはなく、むしろ無防備なくらいだったわ。だってアタシ、付き合ってないのよ?それなのにアタシに猫2匹を任せて自分はお風呂入っちゃうんだもの。アタシが悪い女だったらお金や物を盗んで帰ってしまうことだってできたのに…後で理由を聞いたら、あなたはそんな人じゃないだろうと思ったからって言われたけどね。」
話の途中からのり子先輩の頬が赤いチークを塗ったかのように染まっていくのを、私も雅樹先輩も見逃さなかった。
「それで?」
「猫ちゃんたちもアタシに懐いてくれてね、アタシはカズヤくん宅のリビングのソファーで始発まで寝させてもらったわ。カズヤくんは別室の寝室で。それで今朝、自宅へ帰ってお風呂に入って着替えたりして今に至るってわけよ。」
今時よくできた男である。しかし話を聞かせてもらっている私達にはある疑問が頭に浮かんだ。
「のり子先輩、カズヤさんってもしかして彼女か奥さんいるんじゃないですか?」
「そうですよ!そんな男、まずパートナーがいると見て疑ってかかった方がいいですよ!」
ところがのり子先輩は首を振った。
「もちろん確認したわよ。彼ね、1年前に彼女と別れたっきり特定のパートナーはいないそうよ。一緒に合コンしたユウヤさんにも、カラオケの時に聞いたから間違いないわ。仕事しかしない彼を見てユウヤさんから合コンに誘ったみたいよ。」
そういえばユウヤさんとカズヤさんは知り合いっぽかったな、と私は思い出していた。のり子さんが言うには、以前ユウヤさんの職場へカズヤさんが塗装の仕事で訪れたときに知り合い、それ以来仲良くしているらしい。
「カズヤくん、結構車が好きなんだって。美羽ちゃんは一緒に合コン来ていたから分かると思うけど、ほらユウヤさんの趣味ってドライブだったでしょ?車好き同士で気が合うみたいよ。」
「そんなことよりのり子さん、結局どうするんですか?のり子さんはそのカズヤって人と交際したいんですか?それともただのお友達ですか?この際だからハッキリしておきましょう!」
のり子先輩は口元に手を当て軽く咳払いをすると、恥ずかしそうに声を落として答える。
「も、もちろんアタシは交際したいと思っているけど…。」
と、ここで事務所のインターホンが鳴った。気づけばもうお昼の時間は終わっていた、つまり午後の来客が来たのだろう。私達は大慌てでそれぞれ食べかけの弁当やおにぎりを冷蔵庫へ入れて換気をし、テーブルをキレイに片付けた。もう、いいところだったのに!
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