19章 花火大会と恋の予感 -23 謝罪は態度で見せよ
翌日。
私は出勤してのり子先輩に改めて頭を下げようと思ったが、彼女は来ない。予定表のホワイトボードを見ると、"川島田 午後~"と所長の字で書いてある。
そのまま開店準備をしていると雅樹先輩が入ってきた。また何か頼まれても嫌なので、のり子先輩のことはこれ以上踏み込まない方が良いだろう。とりあえずおはようございます、とあいさつしてみる。
「おはよう…。」
何かあったのだろうか、しょんぼりしている。間もなく所長も入ってきた。私は所長にもおはようございます、と挨拶するとパソコン席のところへ呼ばれた。
「結論から言おう、川島田のことは放っておいてやれ。俺達は同じ職場の同僚だが、だからといって相手のプライベートを引っ掻き回して良い権利はない。話は川島田と雅樹から聞いた、キミは若いし一番年下だから断りにくいところもあるだろうが、そういうときは俺に連絡しなさい。」
お母さんと同じことを言われた。しかし私がのり子先輩を尾行したのは紛れもない事実であるため反論ができない。当の所長本人はいつもの涼しい顔で無表情だ。しかしそれがかえって怖くもある。
「川島田がいつ・どこで・誰と・どんな事情で会うかは彼女の自由だし、それは守られるべきプライバシーというものだ。いくら仲が良いとはいえ超えてはいけない一線というものをきちんとわきまえるべきだな。」
「はい、申し訳ありませんでした。」
私は心から頭を下げた。
「いいかい?謝罪というのは言葉も重要だが、きちんと誠意を表したいなら態度で示すべきなんだ。もう一度言うが、向こうから相談してきた場合を除いて、これ以上彼女のプライベートに踏み込まないように。まぁキミは雅樹の指示に従っただけだろうからこの辺でいいよ。仕事してくれ。」
きっと彼は私よりもコテンパンに怒られたのだろう。朝のあいさつを交わしたっきり無言である。いつもにぎやかな彼がおとなしいというのは、なんだか重苦しい空気を感じてしまう。
「心配しなくてもいい。雅樹は小心者だからしばらく引きずるだろうが、アイツは立ち直りも早いからその内ケロッとしているさ。これはキミにも言えるが、今回の件はまだ相手が川島田だから俺からの説教で済んだんだぞ。全く関係ない人であれば間違いなく警察へ通報され、そうなったらストーカー規制法やプライバシー侵害で一発アウトだったんだ。依頼でもないのに後を追い回したわけだからな。今日の反省はくれぐれも忘れないように。」
その後しばらくして領収証の整理をしていた私のところに、雅樹先輩が近寄ってきて頭を下げた。
「ごめんね美羽ちゃん、オレのせいで。やっぱり人のことをあれこれ詮索するのは良くないね。」
「いえ…私も悪いことだと分かっていたのに、のり子先輩のあとを付けました。怒られて当然です。」
私がそう答えると雅樹先輩は驚いた顔を見せた。どうしてそんなにびっくりしているんですか?
「先輩のせいで私まで怒られたじゃないですか!って責められると思っていたからさ。じゃあオレら2人でのり子さんに謝ろっか!」
そして午後から出勤したのり子先輩が、所長に続き更に雷を雅樹先輩に落としたのは言うまでもない。しかしそれで気が晴れたのか、彼女は私達を許してくれた。
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