19章 花火大会と恋の予感 -16
私はまだお酒というものを飲んだことはないし飲める年齢ではないが、ちょっと知識というか疑似体験談として話しだけは聞いてみたい。
「ユウヤさんが思いの外強くてね、なかなか潰れなかったのよね。それで3杯目くらいに差し掛かった頃かしら?カズヤくんがね、アタシの分のお酒を自分のソフトドリンクとさりげなくチェンジしてくれたのよ。ユウヤさんにバレないよう同じ形のコップを使ってね、女性が酔うのは色々とまずいですからって。」
「な、なにー!それでのり子さん、まんまとキュンとしちゃったんですか!?」
私も食い気味で聞いているが、そんな私以上に熱意を持って聞いている雅樹先輩。きっと今後、女性を落とすためのテクニックとして参考にしたいのだろう。口には出さないが、目がそう思っていることを物語っている。
「まんまとって何よ、でも普段されたことないからとても新鮮な経験ではあったわね。それにアタシ、今までもっぱら酔い潰す側だったからそんな風に心配されたことがなかったのよ。」
「まぁオレなんてのり子さんが酔わないの知っているから、横で飲んでるときに全然気にしませんもんね。現にこの前のバーでもオレの方が早く潰れたし。」
「私はなんだか分かります。そういうふとしたときに女性扱いされると、キュンと来ちゃいますよね!いいなぁ私もそんな経験してみたいです。」
「ただね、アタシはそのときは別になんとも思わなかったの。ちょっとは気の使える男だわくらいにしか思ってなかったから。問題はそのあとよ。」
のり子先輩が一息つくペースでコーヒーを飲むので、私と雅樹先輩も同じペースでコーヒーをいただく。
「結局ユウヤさんが酔っぱらって千鳥足になっちゃったのよ。でそのまま早朝の退店時間になったから、約束どおり彼のおサイフでカラオケの精算をしたの。」
「鬼ですねのり子さん。酔い潰した男に精算させるなんて。」
「だってそういう約束で勝負したんですからね、そもそも持ちかけてきたの彼だったし。とにかく、それで店の外に出たの。彼はろくに歩けないから当然そのまま一人で帰すのは危ないわ、だからタクシーを呼んで放り込んだのよ。」
言い方がいちいちおもしろくてクスクス笑ってしまう私。
「で、カズヤくんとアタシで駅まで歩くことにしたの。それで駅まで近道しようと思ってちょっと細道に入ったのが悪かったわね。面倒くさいのが絡んできたのよ、3人組の男達がね。その人たちも酔っていたからマトモに相手していられないと思って、アタシとカズヤくんが無視して駅へ行こうとしたら、いきなり殴りかかってきたのよ!」
うわぁ、そういうの本当にあるんだ。私は話を聞きながらドン引き。一方、雅樹先輩はウンウンと頷きながら聞いている。こちらは覚えがあるようだ。
「美羽ちゃん覚えておきな。これから特に飲み屋街みたいな治安の悪いところを深夜や早朝に歩かなきゃいけないときは、大通りだけを使うんだよ。ちょっと遠回りになるとしてもね。」
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




