19章 花火大会と恋の予感 -7
「お兄ちゃんはメロン味ね。」
妹さんがかき氷を配る。まだ花火は始まっていない、どうやら間に合ったようだ。妹さんが所長と一緒にいた女性のペアを隠し撮りしたらしく、それを雅樹先輩に見せるとケッと言う。
「あーその人ね、毎月忠司さんにパーソナルトレーニングをお願いしてる女の人さ。ジムの人にお願いした方が安いのにわざわざ頼みに来るんだよ。明らかに忠司さん目当てでうちの事務所通ってるね。」
「まーいいんじゃないの、それで商売成り立ってるんでしょ?それにお兄ちゃんジム行ってないんだからトレーニング指導お願いされたってできないじゃない。」
「オレが言いたいのはそういうことじゃない!なんでレンタル彼氏みたいな依頼は全部忠司さんの方に舞い込むんだ!トレーニングはできなくたって、デートはオレでもできるだろ!」
漫才みたいなやり取りをしているが雅樹先輩は恐らく、なんでみんな所長の方にばっかり頼むんだってことを言いたいのだろう。しかしこればかりは見た目の好みや性格の相性があるため仕方ないと思う。お金を出しているのは依頼人の方だし。
「まぁまぁそんなにイライラしないで。その内イイことあるよきっと。」
「ケッ!同情するなら彼女くれ!」
賑やかな兄妹だなぁと思って見ている内にドーンと大きな音がし、雅樹先輩と妹さんの顔が明るく照らされた。花火が始まったのだ。ここへ案内してもらったときに聞いた通り、絶妙に公園の木より高い位置に花火が来るためよく見えとってもキレイだ。周りを見るとみんなスマホで撮影しながら見ているが、私は肉眼に焼き付けるように見入っていた。こんなに色とりどりでキレイな花火を画面越しに見るなんてもったいない気がしたからだ。まるで夜空の闇を切り裂く鮮やかな宝石のようで、暑さも忘れて見入っていた。
「キレイですね。これ一緒に食べましょ☆」
妹さんと私でたこ焼きをシェアしながら花火を見続けた。私は彼女が撮影していないことに気づいたが、どうやらスマホを遊具に立てかけて録画状態で固定しているようだ。目で楽しみ、あとから映像でも楽しむのだろう。雅樹先輩は少し離れたところで焼きそばを独り占めしていた。
「もう!普通何人かで遊んでるときは食べ物ってシェアするものですけどね!ごめんなさいね食い意地の張った兄で。」
私はその言葉に思わず笑ってしまった。
「気にしないでいいです、食べたければまた屋台で買えばいいだけですから。それになんだか外でみんなで花火見ながら食べるたこ焼きって、一番おいしいかも。」
「でも良かった、美羽さんが楽しそうで。駅であった時は緊張全開って顔してたから。」
そう、私は今まで知らなかった。花火大会に誰かと一緒に来るだけでこんなに楽しいなんて。今までは一人で家に引きこもり、暑い中わざわざ人混みに出かけるなんてバカバカしいと思っていたけど、あれは今思えば私の強がりだったのかもしれない。
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